「ストーリー」には、強烈無比なパワーがある コミュニケーションを円滑にする「物語力」

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勇敢に戦う消防士(写真 : Kzenon / PIXTA)

前回、コミュニケーションの“スーパースター”である「ストーリー」の力について触れたが、今回も、あるひとつのストーリーから始めてみたい。少々長いのだがお付き合い願いたい。

心を揺さぶるストーリー

私は消防士でしたが、年に何回か子どもたちを職場に連れて行ってもいい日がありました。その日はジョーの誕生日で、ケーキでお祝いすることになりました。同僚の消防士が牛乳のパックをケーキの上において、それを建物と見立てて、火をつけたんです。そして、ジョーにその火を消させました。ケーキはびしょ濡れになりましたが、ジョーは大喜びでした。
ジョーはその後、父親が警察官だという女性と付き合い始め、ある日、家に帰ってくるなり、「僕は警察官試験を受けるからね」と宣言しました。私が「ジョー、お前はまだ17歳じゃないか」と言うと、彼は「そんなこと関係ないさ」と肩をすくめました。試験に受かり、卒業後、ちょうど私が最初に消防士を始めたのと同じ場所で警察官としてのキャリアをスタートさせました。
もうひとりの息子ジョンは、ドナルド・トランプ(アメリカの不動産王)のように億万長者になって、両親に楽をさせてやるんだ、などと大口を叩いていましたが、1984年、私が咽頭がんになり、その時、同僚が、私を気遣う様子をみて、「ぼくも消防士になる」と言い出しました。私は「冗談だろう。消防士はそんなにお金を稼げないぞ。どうやったら私を王様のように生活できるようにしてくれるんだ?」と冗談交じりで言いましたが、私は最高に幸せでした。息子が誇らしくてたまりませんでした。
私の父も消防士で、バッジの番号は3436でした。ジョンが消防士になった時、同じ番号のバッジをもらいました。
二人ともよく電話をくれました。ジョンがかけてくるのはたいてい3時半か4時ごろ。そして9月10日の夕方も、私は数分間、普段通り、彼と話しました。「愛しているよ」。私がそういうと、彼も「愛しているよ」と答えました。
ジョーもその日の朝、電話をしてきました。「飛行機が世界貿易センターに突っ込んだ。テレビをつけて」。そして、「これからウェストストリートを南に向かう」と。私は「気を付けろよ。愛しているよ」と伝えました。彼も「愛しているよ」と答えました。それが最後でした。
私はその日、二人の息子を失いました。ジョーは34歳、ジョンは36歳。くしくも、あのバッジの番号3436と同じ数の享年となったわけです。
私には「こうするべきだった」「こういうことができたのに」といった思いはありません。人生の最後を「愛しているよ」という言葉で締めくくれた人は多くはないでしょう。「愛しているよ」。私が、こうして毎晩、眠りにつくことができるのは、息子たちに最後にこの言葉を伝えることができたからだと思うのです。
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