小さいころからずっと自分で事業を始めることばかりを考えている少年がいた。庭先でレモネードを作っては売り、雪の日には近所を回って雪かきをし、おカネを集めた。勉強はできなかったので、最初に行った高校も追い出されてしまったが、新しく行った高校で、アメリカンフットボールの虜になった。
「起業したい病」に取りつかれていた青年は大学生になっても、イベントでTシャツを売ってみたり、生花のデリバリーサービスをやってみたり……。つねに可能性をハングリーに探し求めていた。
大学を出たばかりのころ、あることに気づいた。毎日毎日、フットボールの練習や試合で着るTシャツのことだ。木綿のシャツは汗を吸い込んでしまい、たった1時間フィールドに出るだけで、ビショビショになってしまう。「1日に何回もロッカールームに行って着替えるなんて、どんなに無駄なことだろう。もっと着心地がよくて、機能的なシャツは作れないのだろうか」。
当時、スポーツ用品はヘルメットやシューズの技術革新は進んでいたものの、着るものにはあまり目を向けられていなかった。
思い立った青年は、さっそくさまざまな素材を試し、最も揮発性が高い生地を見つけ、仕立て屋に持っていき、500着を試作した。出来上がったものをフットボール仲間のネットワークを通じて、さまざまなアスリートに試着してもらったところ、その評判が口コミで広がり始めた……。
それから20年。この青年、ケビン・プランクの立ち上げたUnder Armourは目覚ましい成長を遂げ、Nike、Adidasと並ぶ大人気スポーツブランドとなった。その勢いはとどまることを知らず、アメリカでの売り上げはAdidasを上回るまでになり、日本でも独特のロゴをスポーツクラブなどでよく見かけるようになった。
現在、まだ43歳のプランクはエネルギッシュだ。次々とアスリートやセレブとの契約を成功させ、シューズの市場にも参入するなど鼻息は荒い。
ストーリーなしに心をつかむことはできない
上記のストーリーは、「真にアスリートの立場に立って、革新的な製品を生み出し、そのパフォーマンスを上げる」というミッションを共有化するツールとして積極的に活用されている。プランク自身、スポーツブランドにとって大きな草刈り場でもある大学に足しげく通っては講演し、こうしたストーリーを学生などに繰り返し伝えている。
プランクは「グレートブランドはグレートストーリーそのもの」と説き、グレートプロダクト、グレートサービス、グレートチームと並び重要なのが、グレートストーリーだと言い切る。こうしたストーリーなしでは消費者の心をつかむことも、ファンと心を通わせることもできない、つまりストーリーこそが最高の共感形成ツールというわけだ。
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