ストーリーが、単なる事実の羅列やパワポの箇条書きよりもはるかに人の心をつかむ、ということは、脳科学的にも実証されている。複数の科学者の分析の結果、ストーリーは聞き手の脳にコルチゾール、オキシトーシン、ドーパミンなどの脳内物質の分泌を促すことがわかってきた。その作用により内容が記憶に鮮明に刻まれやすくなるというわけだ。
ストーリーはアメリカなどでは多くの経営者、政治家、著名人がスピーチなどで多用しており、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾズ、J.K・ローリングスなどの有名なスピーチはその代表事例。いずれも、個人的な体験談とそこから得た教訓に励まされたり、インスピレーションをもらえる名ストーリーだ。
世界一著名な投資家、ウォーレン・バフェットもストーリーテリングのうまさで知られている。人前での彼のトークもじつに軽妙で楽しいが、年次の株主向けレターは、彼自身の視点から体験談などを交えて書かれており、毎年その内容が大きな話題となるほどだ。1人称で語り、自らの失敗にも正直に触れるなど人間味にあふれており、無味乾燥なアニュアルレポートとはまったく異次元の読み物となっている。
たとえば、こんな感じだ。
バフェットのストーリーとは?
いかがだろうか。難しい言葉は一切ない。誰の頭にもスーッと入り、農場の景色までが浮かんでくる。一度読んだだけで、今度は誰かに自分が同じ話を語ることが出来てしまう。これが、企業が主語で、味気ない事実の羅列であったらどうだろうか。記憶に残らないまでか、何より、「次に何が起こるんだろう」というワクワク感、スリルも感じないだろう。このシズル感(ステーキの肉汁がジュウジュウと音を立てているようなしたたり感)こそがストーリーの醍醐味であり、本質なのだ。
じつは、まさにこのスリル、ワクワク感を体系化した黄金構造が存在する。アリストテレスからシェークスピアまでの名ストーリーを分析して導き出された黄金構造だ。いくつかのパターンはあるが、基本はヤマ型、アーチ形であることは共通しており、「ストーリーアーチ」とも言われる。有名なのはドイツの劇作家フレイターグのピラミッド構造だ。
①導入、序章(シーン設定) → ②ストーリー展開(困難・挫折に立ち向かうなど出来事が次々起こり、盛り上がっていく。その間、聞き手は緊張感や期待感を高めていく) → ③クライマックス(ストーリーが最高潮に達する) → ④その後の出来事、事態の収束 → ⑤エンディング(ストーリーの主題や教訓、オチがここで明らかになる場合もある)、という順番でよいストーリーは語られる、という理論だが、欧米では広く浸透している考え方のようだ。
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