その人がどんな苦労を経たのか、どのように立ち上がり、新しいことを発想し、まわりの人たちも巻き込んで成功するに至ったのか。成功譚は読むだけで気持ちが高揚し、その人が示す教訓を取り入れたくなるのはわかります。その「信じたい気持ち」「夢見る気持ち」が、成功譚をノウハウ化して売り物にしている成功者のカモにされていると見ることもできるのです。
知人の経営コンサルタントが、以前、こんなことを言っていました。「ものが売れる理由というのは存在しない。ただし売れない理由は必ずある」――成功には再現性がないが、失敗には再現性があるということです。ならば、成功した経営者の話ではなく、失敗した経営者の話を読んだほうが、よほど有意義な教訓を得られるに違いありません。
もっと話を広げれば、有名な成功者をかたった詐欺メールやロマンス詐欺に引っかかる人も、同じ類型に入ります。「なぜ、縁もゆかりもない有名人が自分にメールを?」「なぜ、こんなに素敵な人が急に自分を好きになった?」と疑うことなく、「自分こそ選ばれた人なのだ」と考えてしまう。でも、そんな降ってわいたような甘い夢物語は、まず現実には起こりません。カモにならないためにも、そう肝に銘じておいたほうがいいでしょう。
自分も笑っている場合ではない
『全員“カモ”』を読んだうえでXを眺めていると、「カモになりやすい予備軍」の人たちがたくさんいることに改めて気づくかもしれません。
特殊詐欺のニュースなどに接したとき、多くの人は「だまされるほうがバカだ」と笑うでしょう。しょせんは他人事なので嘲笑し、エンタメの1つとして消費してしまう。でも本当は、決して他人事ではありません。
いつ、自分も同じ落とし穴に陥るかわからないのです。エンタメ化するのではなく、「どうして、この人はだまされてしまったんだろう」と一歩引いて考えてみることが、多種多様な「だまし」がはびこっている今、自分の身を守るためには必要だと思います。
(後編に続く)
(構成:福島結実子)
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