
今年4月、アメリカの半導体大手エヌビディアのCEOジェンスン・フアンは、同社が中国向けに特別に設計したAI半導体の販売をトランプ政権から禁止されたことで、国際政治の世界へ足を踏み入れざるをえなくなった。
以来、フアンは大統領ドナルド・トランプに方針転換を促そうと世界中を飛び回り、交渉に奔走。トランプの中東歴訪に同行し、議会で証言し、ワシントンでは記者団を魅了した。さらに、トランプが対中貿易に強硬姿勢を示す中、グローバルなビジネスの利益を水面下で重視するホワイトハウス内の「味方」に働きかけてきた。
対中輸出再開で株価に追い風
こうした努力がエヌビディアに成果をもたらし始めている。フアンは7月10日、大統領執務室でトランプと会談し、中国向けAI半導体の販売再開を強く訴えたと、会談の内容を知る2人の関係者が匿名を条件に明らかにした。フアンは、アメリカ製半導体こそが世界標準であるべきであり、巨大な中国市場を中国のライバル企業に明け渡すことでアメリカは重大な過ちを犯しつつあると主張した。
その数日後、エヌビディアは政権が方針転換を進めていると口にした。この出来事は、テクノロジー業界でフアンの地政学的影響力が台頭してきたことを際立たせる注目すべき逆転劇となった。それは同時に、エヌビディアが世界で最も価値のある上場企業へと急速に成長し、AIブームの要となっている状況に、さらなる説得力を与えるものともなっている。
7月9日、AIシステム構築に必要な半導体市場の90%以上を支配するエヌビディアは、上場企業として世界で初めて時価総額4兆ドルの大台を突破した。その後も同社の時価総額は、中国市場への復帰が大きな押し上げ要因となり、記録更新が続く。