こうした母子密着、母の支配が強い環境では、その母親の子どもとのかかわり方に問題があった場合に、子どもが丸ごと悪影響を被ることになり、心身の成長に何らかの支障をきたすのではないか──ということで母親の問題が取り上げられるようになったのです。
1979年には小児科医・精神科医の久徳重盛による『母原病 母親が原因でふえる子どもの異常』が刊行されたことで、一気に社会問題として認知されることとなりました。
その後、もとはアメリカで生まれた「アダルトチルドレン」「毒親(トキシック・ペアレンツ)」という言葉が日本にも輸入され、すでに人口に膾炙(かいしゃ)しているのは、みなさんもご存じのとおりです。
本書『親といるとなぜか苦しい』の内容を見ても、大人になってからも尾を引く母子問題の根深さは、日米でそう変わらない印象です。
子どもはみんな、母から無条件の愛情をたっぷりと注がれたい。しかしそれが十分に満たされなかったことが、大人になった今も自分を苦しめている。実の母親との関係に戸惑い、試行錯誤し、傷つきながら生きてきた人たちが、著者のアドバイスのもと、それぞれの向き合い方で母子問題を克服する実例が、本書にはふんだんに取り上げられています。
男性の育休が子育て問題を解決するか
母と子だけで過ごす時間が長ければ長いほど、自然と母の子に対する支配力は強くなります。同居している祖父母がいれば母子は密着せず、母と子がぶつかったときなども、子どもが祖父母のもとに逃げ込むことで母親にも余裕が生まれます。つまり核家族とは、子どもにとって逃げ場がないだけでなく、母親にとっても逃げ場がない環境といえます。
今は夫婦共働きが当たり前になっていますが、専業主婦の母と子の密着がなくなったからといって、きわめて狭く閉ざされた家庭環境で子育てをするという核家族の本質的な問題が解消されたとはいえないでしょう。
共働きの両親が平等に子育てに関わり、親の手を離れるまで育て上げるというのが核家族の理想です。男性の育休取得が少しずつ社会的に受け入れられているなか、その理想に向けてうまく機能する夫婦もいるかもしれません。
しかし一方、夫婦ふたりそろって仕事も子育ても同時に同程度がんばらなくてはいけないのは、実際には、そうとうしんどいはずです。平等ではあるけれども、負担が軽減されるわけではない。これが現状ではないでしょうか。
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