なぜ男性の育休取得で子育てが楽にならないのか 「むしろ男性不在で問題なし?」意外で深い理由

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さらには、子どもに対する責任が祖父母などに分散せず、親だけに重くのしかかる分、「親」というものへの期待が過剰になりやすいことも事実です。それが親にとっては大きなプレッシャーとなり、そのしわ寄せで、子どもに対する支配が余計に強まったり、急に疲れてそっぽを向いたりと、愛情が不安定になりやすく、いびつな親子関係が形成されやすいのです。

意外な活路は「女系家族」

祖父母同居の大家族にはまったく問題がないとはいいません。たとえば第一子は、母親が万事不慣れなので、祖母がかなり多く子育てに関わることが多い。そのために第一子は実母よりも祖母との関係性のほうが強くなるというのは、よく見られるケースです。

第二子以降は、子育てに慣れてきた母親との関係性が強くなり、いっそう第一子は「おばあちゃん子」になっていきます。すると祖母が亡くなった後に、家族内で疎外感を抱く場合があります。

とはいえ、夫婦ふたりだけの子育ての大変さ、そこで生じかねないさまざまな問題が子どもを生涯にわたり苦しめる可能性を思えば、やはり核家族よりも大家族のほうが、子どもを守るためには適しているように思えます。

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それも男性ではなく女性が家を引き継いでいく「女系家族」こそ、子育てに適していると考えてもいいのかもしれません。

現実的に考えれば、子育ての主力は、やはり母親です。父親にも少しは果たせる役割がありますが、母親のそれと比べるときわめて限定的です。だとすると、私たちが本当に取り組むべきなのは、「父親が子育てに関与する割合をいかに増やすか」ではなく、「たとえ父親不在でも、母親が子育てしやすい環境を、いかにつくるか、強化するか」ではないでしょうか。

現に、離婚した女性が子どもを連れて実家に戻り、実母と協力して子育てをするというパターンは多々あります。離婚の帰結として、一時的に、いわば擬似的な女系家族が形成されているわけですが、これが子育てにおいて存外に安定的で好ましい環境となっているという状況に、割とよく遭遇するのです。

振り返れば「家族」の観念は時代とともに移り変わってきました。今、また改めて母子問題がクローズアップされているなか、私たちは「ふつうの家族」とは何かを問い直すべきときにきているのかもしれません。

(構成:福島結実子)

岡田 尊司 精神科医、作家

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おかだ たかし / Takashi Okada

1960年香川県生まれ。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などで現代を生きる人々の心の課題に向かい合う。現在、岡田クリニック院長(枚方市)。日本心理教育センター顧問。著書に『愛着障害』(光文社新書)『発達障害「グレーゾーン」』(SB新書)、監訳書に『親といるとなぜか苦しい』(東洋経済新報社)など多数。小説家・小笠原慧としても活動し、作品に横溝正史賞を受賞した『DZ』などがある。

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