「たとえば、自販機で購入する場合には『すぐに買える』『誰とも話さずに買える』などの価値があり、コンビニの場合は『立ち読みした後に買える』『ほかの商品と一緒に買える』などの価値があります。そしてスーパーの場合は、また別です
つまりコカ・コーラというブランドの価値にはチャネルの価値も含まれていて、究極的には、コカ・コーラのマネージャーはコカ・コーラのことを全部マネージすることなどできないのではないかと」
そのとき富永さんは、自分の中でコカ・コーラのブランドマネージャーになりたいという思いが弱まっていて、新たに「チャネルのマーケティングをやりたい」という気持ちが盛り上がっていることに気づいた。
目指すは前人未踏の理論構築
コカ・コーラを離れ、知的好奇心に導かれるように随所で経験を積んだ後、ついに西友という顧客に直接触れることのできるチャネルでマーケティングに携わるようになった富永さん。目下夢中になっているのは「買い物レシート」の分析だ。
1カ月当たり数千万枚にも上るレシートは、富永さんにとって宝の山だ。膨大な数のレシートをコンピュータで解析すると、顧客の買い物の「意図」が見えてくるのだという。
考えてみてほしい。1つの店にも、夕食準備のために来店する客がいれば、コンビニのように素早く気軽な買い物をするために来る客もいるし、はたまた、コメや水などの重いものを買いに来る客もいる。
「そういった『意図』に関する研究がもっとできれば、お客様にとってストレスが少なくなるように商品配置、店舗設計をすることができ、また他店よりも西友に足を運んでいただけるように商品戦略を策定することもできるようになります」
一般的にマーケティングでは、代表的な顧客の趣味、思考、属性などを考え、いわゆる「ペルソナ」を設定する王道のやり方がある。が、富永さんに言わせれば、「それではだいたいどこのスーパーが考えても同じようなターゲットになり、したがって競合企業と差別化するのが難しいし、地域ごとの特色を反映させるのも困難になる」のだ。
冒頭に紹介した「プライスロック」や、プライベートブランドの「みなさまのお墨付き」というネーミング、ノリノリなテレビCMなど、一見「西友は不可思議だなあ」と思われがちな取り組みが多い背景にも、こうした富永流マーケティングの考え方があるのだ。
とはいえ、こういった「王道」とは違った奇策を社内で通すのには、なかなか骨が折れそうだ。しかしここでも、富永さんの“理論派変人力”が発揮されている。
「世の中に正解はないと言いますが、まずは自分の中で『これが最適解だ』と思えるところまで考え尽くすことが大切です。企画の提案に際しても、『これが渾身の作です』『いいから、私を信じてください』と言えるかで、圧倒的な差がつきます。ゆるく考えて『松・竹・梅』のパターンで提案をすれば、経営側は無難な『竹』あたりを選ぶのがオチですから」
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