旅行会社らしからぬビジネスを推進する男
コロナ禍で人々が外出や移動を控えるようになり、旅行業界が未曾有の苦境にあえぐ中、将来を見据えて打開のシナリオを描く男がいる。山野邉淳(やまのべ・あつし)、51歳。総合旅行会社エイチ・アイ・エス(HIS)で法人営業部門を統括する取締役上席執行役員だ。HIS JAPANヴァイスプレジデント兼法人営業本部長を務める。
HISの業績は厳しい状況にある。2020年10月期は2002年の上場以来、初めての最終赤字に転落。今年6月に発表された2021年度10月期上期決算は売上高676億円と前上期比で8割も減った。営業赤字は310億円(前上期は14億円の営業赤字)。保有資産の売却や投資計画の縮小、経費削減などで急場をしのいでいる。
先行きも予断を許さない業況の中、山野邉さんはこれまでHISが築いてきた世界中のネットワークを使って、日本にしかないこだわりのお店を海外へ出店するほか、海外からは日本へ人材を派遣。ビジネスマナーや日本語の研修、着任中の生活サポート、帰国後の就職支援などのビジネスを率いている。
言うまでもなくHISは旅行会社だが、山野邉さんがかかわるビジネスは、従来の旅行会社にイメージする「本業」とはかけ離れている。
これを山野邉さんは、「旅行会社を『商社化』することに挑戦している」と位置づける。現時点では旅行業がHISの売り上げのほとんどを占める中で、「旅行業以外の多種多様なものを大きく育てていきたい」と言う。
夢物語に聞こえなくもないが勝算はあるのか。そして、旅行会社にいながら「非旅行業」を屋台骨に育て上げようとする「組織内変人」山野邉淳はいかにして生まれたのか。
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