旅行大手HISで「非旅行業に夢を託す男」の仕事観 51歳法人営業本部長が進む「旅行会社の商社化」

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こうして、エイチ・アイ・エスは北海道カフェ『椿サロン』の「北海道ほっとけーき」を台湾のリージェント台北に送り出したのをきっかけに、日本の食文化の海外進出支援事業を始めることになった。

2020年初めに中国から始まったとみられる新型コロナウイルス感染症の流行が各地へ広がり、全世界がコロナ禍に包まれた。

旅行ができないコロナ禍という逆境も、旅行会社の変革を大きく前進させるうえで絶好の機会であると考えた(撮影:梅谷秀司)

「なんだかんだ言ってすぐに落ち着くだろうと考えていましたが、やがて事態が長期化するにつれて、これは相当しんどい状況になったと思いました。でも、旅行ができないなら、旅行以外のことをやるしかありません。もともと旅行会社は変わらなければならないと思っていましたから、必要に迫られているこの状況は、旅行会社の変革を大きく前進させるうえで絶好の機会であると考えました」

旅行業が厳しい状況にある中、山野邉さんの言う「商社化」はHISの成長エンジンとしての可能性を秘める。HISが日本と世界、世界と世界をつなぐ触媒として介在すれば、旅行以外にも新しい価値を生み出すことができるかもしれない。今はまだ種から芽が出たぐらいだ。大きく花を咲かせるにはさまざまな困難があるだろう。うまくいく保証は何もない。

しかし、立ち止まっているだけでは何も変わらない。今年2021年7月、山野邉さんたちは豊かな日本の国土に広がるおいしい文化を世界へ、そして、未来へ届けるために「HIS FOOD PROJECT」を発足させた。こだわりの日本茶の輸出や、農業、畜産業の生産支援に着手している。

挑戦者を称える組織風土

山野邉さんがこのように考えられるようになったのは、生来の気質に加え、HISという組織風土から受けた影響も大きかったと言う。

「危機になっても落ち込まなかったのは、HISでは昔から『危機こそチャンスだ』という考え方が根付いていたからだと思います。世間でも『カリスマ経営者』と言われる、うちの澤田(取締役会長兼社長・澤田秀雄氏)が『そういうときこそ、顔を上げなきゃいけないんだ。元気を出さなきゃいけないんだ』とよく言っていました。何より澤田自身がそれを実践していますし、事業を楽しんでいる。仕事を楽しんでいる。そうした思考や姿勢が企業のカルチャーを築いていたように思います」

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