旅行大手HISで「非旅行業に夢を託す男」の仕事観 51歳法人営業本部長が進む「旅行会社の商社化」

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今回のコロナ禍は旅行業界にとってかつてないほどの衝撃を与えた。これほどまでの規模の事態はなかったとは言え、振り返ってみれば、これまでにも幾度となく旅行業界は大きな危機に見舞われてきた。

過去にも、湾岸戦争やSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行などで、旅行がピタッと止まることがあった。そのときも澤田氏は「需要がない状態が普通なんだったら、何かしようよ」と社員に呼び掛けた。「ですから、HISの社員には少なからず、逆境を力に変える精神が宿っているように思います」(山野邉さん)。

過去に与えられてきた数々の試練と、カリスマ経営者のもと、社員たちが幾多の困難を乗り越えてきた歴史の中で、同社には「変人=変える人」が生まれる土壌が育まれてきたのかもしれない。

会社をテコにせよ

山野邉さんは言う。

「サラリーマンがいいと思うのは、会社を使うことで自分の力以上のことができるということです。これは、本当に魅力です。会社の看板を使えるなら使い倒せばいいんです。

会社のテコを使って実力以上のことをやる。それが醍醐味だと思っています。もちろん、ダメだったらダメで相当痛い思いをしますし、自分がやりたいことをやって会社に損失を出してもいいとは思っていません。

山野邉淳(やまのべ あつし)/エイチ・アイ・エス取締役上席執行役員、HIS JAPANヴァイスプレジデント兼法人営業本部長。1970年生まれ。1993年エイチ・アイ・エス入社。2014年執行役員、2016年取締役を経て2018年3月から現職(撮影:梅谷秀司)

会社に挑戦させてもらえるからには、私自身『絶対返してやるぞ!』という思いでやってきました。幸いなことに、HISという会社には、挑戦させてくれる土壌がありました。そうでなければ、私のような人間がここまで成長させてもらえることはなかったと思います」

かつて、チャールズ・ダーウィンは言った。

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一、生き残るのは変化できる者である。

HISという組織の風土は、山野邉さんを変化させてくれた。コロナ禍という歴史的な転換期の中、旅行会社の生き残りをかけ、そして組織への恩返しとして山野邉さんは小さな芽を花に育てるべく奔走を続けている。

川下 和彦 クリエイティブディレクター/習慣化エバンジェリスト

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かわした かずひこ / Kazuhiko Kawasita

2000年、慶應義塾大学大学院修士課程終了後、総合広告会社に入社。マーケティング、PR、広告制作など、多岐にわたるクリエイティブ業務を経験。2017年春より、新しい事業を創造し、成長させることを標榜するスタートアップ・スタジオに兼務出向。広告クリエイティブに留まらず、イノベーション創出に取り組んでいる。著書に『コネ持ち父さん コネなし父さん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ざんねんな努力』(アスコム)などがある。(撮影:原貴彦)

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