
富永さんのキャリア形成を知るには、まず富永さんの思考法に注目したい。彼は自らのことを「根っからの言葉オタク」と称するのだ。なるほど、富永さんに質問すれば、瞬時に「したがって」「しかるに」「よって」などかっこいい接続語を多用した、論理的で明快な答えが返ってくる。
「たとえ話ではなく、私は『世界は言葉でできている』と思っています。きれいな景色を見ても『夕焼け』や『雲母』という言葉を知らなければ、視覚から収集した美しさを理解できないように、人間は五感で受け止めたことを言葉によって理解していると思うのです」
そんな富永さんは、どんなこともしっかりと言葉に落とし込み、全体像を論理的に組み立て、課題があればどう解決すればいいかを文脈にして考える。自身のキャリア形成も、それは同じことだった。
本質を突く「言葉と論理」をつかみたい
「ときどき、どんな状態で仕事をしていることが幸せかと、考えることがあります。それで、『あっ、これは面白そう!』と感じて、もうやりたくて仕方ないという状態になっていることが幸せではないかと思うのです。逆に、たとえば『どうしたら小説が書けるようになるか教えてください』と聞きに来るような人は、小説家に向いていない気がする」
そう語る富永さんが学生時代から夢中になったのが、「マーケティング」の奥深さだった。社会の一線で働きながら、マーケティングというものの本質を突く「言葉と論理」をつかみたい――。そうして真っ白なキャンバスに最初に打った「点」は、フィルムメーカーのコダックへの就職だった。
しかし、出だしから順風満帆だったわけではない。入社して最初に配属されたのはメディカル関連の事業部。かねて希望していた一般消費者向けではなく、放射線技師の方々を相手にレントゲン用フィルムのマーケティングをしていた。
加えて、当時アナログだった医療用フィルムの世界にもデジタル技術の波が押し寄せ、富永さんは他部門への異動を迫られることになったが、このとき、「心が燃える方に向かうこと」を決意する。
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