母親をひとりぼっちで介護する29歳男性の困窮 介護に縛られる20〜30代の知られざる現実

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大学生のみを対象とした国の調査では、若者ケアラーが求める支援は、学費支援や奨学金返済免除・減免がトップである。

大阪市の介護事業所チャーム・ケア・コーポレーションは同社に入社した若者ケアラーについては、在籍する間は奨学金の返済を肩代わりする支援を始めた。こうした支援が広がってほしい。

家族介護慰労金とは、自宅で1年以上介護サービスを利用していない要介護4と5の介護者に年間10万〜12万円を支給する制度だが、対象者を限定しすぎている。独自の基準で慰労金を支給している自治体はすでにある。厚労省は要件の緩和を検討してほしい。

介護休業や介護休暇の取得率も低い。介護休業は家族1人3回を上限に最大93日まで分割取得できる。介護休暇は1年で1人につき5日、対象家族2人まで最大10日の取得が可能だ。しっかりとした制度なのに介護休業の取得率は30歳未満で男性1.8%、女性は1.3%にとどまる。

謝るぐらいなら、デイケアに通ってほしい

居場所づくりも大切だ。近年は当事者同士が集まり語らうイベントが増えた。苦境を話せる場があれば、当事者は少しは楽になる。

介護疲れから、悟さんは精神障害者保健福祉手帳3級を受けた。

それでも母親の介護は続く。短時間でも1人になりたいと願っている。しかし母親は、息子がそばにいる心地よさとプライドから、介護サービスはかたくなに拒む。

疲労困憊(こんぱい)する悟さんを見て、母親は「ごめんね」とつぶやく。悟さんの心境は複雑だ。「謝るぐらいなら、デイケアに通ってほしい。友達は減り、社会との接点はどんどん薄れている」(悟さん)。

若者ケアラーの支援は待ったなし。まずは実態を把握すべきだ。

奥村 シンゴ ケアラー支援団体「よしてよせての会」代表

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おくむら・しんご

ケアラー評論家。32歳から認知症の祖母と精神疾患の母親の介護を経験。2021年にケアラーを支援する「よしてよせての会」を設立。著書に『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』

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