気仙沼市「ひとり親」世帯の見えざる生活困窮 子どもの孤立と貧困を防ぐ東北被災地の奮闘

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取材に応じる男性
震災を契機に生活が苦しくなったと語る父親(写真:記者撮影)
東日本大震災から10年。震災の影響による子育て世代の生活困窮は今もなお深刻だ。被災地で、子どもの貧困や孤立を防止する取り組みが進んでいる。特集「1億『総孤独』社会」の一覧はこちら

宮城県気仙沼市。2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けたこの街は今、仮設住宅がなくなり、道路も新しく舗装され、復興を終えたかのように見える。だが、表から見える風景と現実は少し異なる。 

「昨日のご飯、もう残ってない?」

街の一角にある遊具場。震災直後、心に傷を負った子どもたちが遊べる場にしようと設けられた民営施設だ。この10月、施設長にこう尋ねてきたのは地元の高校に通う女の子だった。派手なスマートフォンやアクセサリーを身に着けた、一見、普通の女子高生である。

施設長は「前日はハロウィーンパーティーで、みんなでオムライスとパンプキンスープを作ったのです。彼女も手伝いに来てくれ、皆と一緒に食べました。もしかしたら、家に食べるものがなかったのかもしれない」とおもんばかる。

真冬に水のシャワー

少し前には彼女からこんなメールが来ていた。「父がお金を貸してほしいそうです」。施設長は父親に直接会い「お金のことを娘さんに言わせるのはやめてください」と伝えた。ただ施設長には、この家族の苦境が痛いほどわかっていた。

彼女の父親が働いていた水産加工場は11年前の津波で流され、父親は整理解雇された。復興工事の仕事に就けたものの収入は低く、消費者金融で借金を重ねる。母親は精神疾患を発症し、働ける状態ではなくなった。ガスは止められ、子どもたちは真冬に水のシャワーを浴びることもあったという。

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