今年4月、千葉県に住むAさん(60代女性)の自宅に一通の封書が届いた。そこには、90代の父親に「成年後見制度を適用する」と書かれている。送り主は父親が住む都内の自治体の役所。一人暮らしの父親に認知症の症状が出ているため、見ず知らずの弁護士後見人をつけるという。
何が起きているのか理解できなかった。新型コロナウイルスの感染が広がり、父親と会えない日が続いていたが、まさかそんな状況だとは思ってもいなかった。
後見人は、認知症などで判断能力が低下した人に代わり、日常生活に必要な銀行口座からのお金の引き出しや不動産などの財産の管理などを行う。それが近年では、後見人が勝手に本人所有の不動産を売却して現金化したり、銀行口座にあるお金を横領したりする事件が多発している。Aさんは言う。
「居場所は教えられません」の一点張り
「父親と話をしたくて電話をかけたが通じない。自宅にもいませんでした。都内には父が所有するマンションが2部屋ありましたが、それがどうなったかもわかりませんでした」
封書を発送した役所の担当者に尋ねても「お父様の居場所は教えられません」の一点張り。後見人候補者になるという弁護士の名前も教えてもらえなかった。
こうなれば自分で捜すしかない。自治体のエリア内にある高齢者施設と片っ端から連絡を取った。父親とAさんが再会できたのは、今年9月だ。埼玉県内の精神科病院に入院させられていた。すぐに退院させると、父親は「おいしいものが食べたいな」と言った。現在、父親は住民票を千葉県に移し、Aさん夫婦と一緒に暮らしている。
私が代表を務める一般社団法人後見の杜には、このようなトラブルの相談が後を絶たない。
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