富裕層が多く暮らすセレブな街として知られる東京都港区。一人暮らしの高齢者が多いことは、あまり知られていない。
この秋、あるマンション高層階の部屋の前では人が集まり、部屋の中に向かって声を上げていた。
「いるんでしょう? ドアを開けて。何かあったの?」
部屋の中にいるのは80代の女性だ。仕事一筋に生き、マンションも自身で購入していた。結婚歴はなく、家族はいない。
「どうしちゃったの?」と、郵便ポストの穴越しに声をかける近隣住民に、女性は「大丈夫だから」と、か細い声で返した。
意識はあるが話がかみ合わない。
見守りを兼ねる配食サービス
異変に気づいたのは、配食サービスで訪問した配達員だった。配食サービスは単に弁当を運ぶだけでなく、本人に直接手渡すことで見守りを兼ねる港区のサービスだ。
その日、配達員が弁当を届けると、部屋の中から「入り口に置いておいて」という声が聞こえた。直接手渡さなければならない配達員が「何かありましたか?」と尋ねると「歩けないから、置いておいて」と返ってきた。
やり取りを耳にした近隣住民も、配達員と一緒に声をかけ続ける。
連絡を受け、駆けつけたのが港区の「ふれあい相談員」。数年前からこの女性と定期的に接触し、コミュニケーションを絶やさずにきた。女性の返答に明らかな異変を感じた相談員は、本人から教えてもらっていた親族の連絡先に電話をかけ、合鍵を持ってきてもらう。
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