83歳妻に株を売るように迫る 「成年後見人」の罠 認知症を疑われた高齢者の後見人トラブル

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もともと、成年後見制度は介護保険制度と一緒に2000年4月にスタートした。現在、日本の認知症患者は600万人を超え、2025年には約700万人に増えるといわれている。判断能力が低下した高齢者は、社会から孤立化しやすい。そういった人たちの生活を手助けするのが成年後見制度だが、成年後見を受けている人の数は約24万人にとどまっている。

2016年には、弁護士や司法書士らの業界団体の強い要望を受け、政府は成年後見制度利用促進法を成立。市区町村に自治体単位で制度の普及を促す計画の策定を求めた。

老後を2人で過ごせなかった夫婦

これが、新たな問題を引き起こした。夫婦2人、東京都内で暮らしていた80代の女性は、役所から「旦那さんのために成年後見制度を使いましょう」と言われ、役所から紹介された行政書士が後見人になった。

ところが、その行政書士は妻の意見を聞かないまま、夫を高齢者施設に入所させた。その妻は、私にこう訴えた。

「夫が入った施設の環境が劣悪で『残り少ない人生を2人で過ごせる施設に移りたい』と後見人に言ったんです。でも、何度言っても認めてくれませんでした」

行政書士の説明では、夫の預金は8700万円あるが、他施設への入所は費用がかかるので認められないという。揚げ句には「このことで今後連絡してこないでください」と書かれたファクスまで送りつけてきた。その後、夫は施設で新型コロナウイルスに感染し、亡くなった。老後は一緒に暮らすという2人の小さな願いは、ついにかなわなかった。

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