気仙沼市「ひとり親」世帯の見えざる生活困窮 子どもの孤立と貧困を防ぐ東北被災地の奮闘

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父親は取材に「震災で私が仕事を失ってから、生活はずっと苦しい」と述べ、こう続けた。

「今年の春、私の兄が亡くなったんです。お悔やみでまとまった金が入ったんだけど、3月は娘の高校入学準備のタイミングで、お悔やみの金を娘の入学費用に充ててしまった。ちょうど電気も止められそうになっていて、お悔やみの金で滞納していた電気代も払うことにした。

何とか電気は止められずに済んだが、今度は葬儀屋に払う金がなくなってしまった。毎月1万5000円ずつ払うからって懇願したんだけど『ダメだ』って言われ、困って……」

今年、父親は工事の職も失っていた。震災復興事業が終了したことの影響だ。一家の収入は途絶え、ついに、子どもたちの食事さえ欠くようになった。

社会とつながれていない家庭

この家庭を気に掛けてきた三浦友幸市議は「両親は生活力が弱く、地域や社会とのつながりも薄い。ただ、遊具場の施設長やスタッフが子どもたちとつながり、支えていることで家庭は何とか持ちこたえている」と言う。

「問題は、社会とつながれていない家庭。困窮していたり問題を抱えたりしている家庭ほど、親が行政の介入を拒む。拒まれれば行政は立ち入れない。そこで孤立するのは子どもたち。だから子どもたちが気軽に集まれるような居場所が必要なのです」。

市議会で困窮家庭や母子家庭の窮状を議題にしてきた三浦市議の取り組みに、外部から呼応したのがNPO法人「人間の安全保障」フォーラムだ。

気仙沼市と「人間の安全保障」フォーラムは昨年8月に包括提携協定を締結。気仙沼プロジェクトとして女性のIT就労支援や子どものプログラミング教育、「子どもの権利条約」啓発などを打ち出してきた。この春には「ひとり親の生活調査」を実施。母子世帯やその子どもの生活実態を可視化した。

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