「100年に1度、人間も社会も劣化する」 人間は放置をすれば限りなく野生化

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葛西敬之(かさい よしゆき)●1940年生まれ。東京大学法学部卒。1963年日本国有鉄道(国鉄)入社。職員局次長などを経て、1987年に分割民営化で発足した東海旅客鉄道(JR東海)の取締役総合企画本部長。 1990年副社長、95年社長、2004年会長。2014年4月から代表権を持つ名誉会長に就任

葛西:そういう面はありますね。僕は、人間というものは1世紀に1回ぐらい劣化すると思っています。野生化と言ってもいいのかもしれません。野生化、あるいは過度に劣化した状態になる。自立的な生命力がおかしくなってしまうような異常性、異様性が出てくるのではないかと思います。人間だけでなく、人間が作った社会も同じです。仕組みが劣化して、もうこれ以上はもたないとなる。日本だけでなく世界の歴史を見ても、1世紀に1回ぐらい、そういう制度疲労、人間劣化が起こっています。

そこで起きるのが戦争です。たとえば、18世紀から19世紀に変わるときは、フランス革命とナポレオン戦争という変動期を経て、18世紀の人が夢にも思わなかったような19世紀の仕組み、Nation State(国民国家)が生まれました。

この19世紀の仕組みが20世紀の仕組みに変わる移行期間は、第1次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件から、日本の敗戦まで。あの期間に世界中は、ヨーロッパの時代からガラッと変わりました。

通常、世紀の転換が起こるときというのは、人間は劣化する。19世紀末はデカダンス―退廃の時代で、大正デモクラシーもそんな時代だった。劣化した人間を鍛え直す、それから過剰な製造能力によって生じたデフレ状態、失業者の増加を、破壊によって是正するという動きが出たわけです。

戦争に勝つための知恵を総動員するので、発明が起こり、新たな市場が用意される。戦争による破壊、人間の鍛え直し、そして新技術の発明というものが、人間の歴史であったことは間違いありません。これが、人間が野生化した場合の処方箋だったと思います。

どうやったら人間を鍛え直せるのか

しかし、技術が飛躍的に進歩した結果として出現した核兵器により、状況は様変わりしました。20世紀はヨーロッパの時代から米ソ冷戦の時代へ移り、核の抑止力によって戦火を交えることはなくなった。その後、ソ連が立ち枯れ状態になって滅び、アメリカは唯一の勝者になった。その間に戦争という破壊を伴っていないために、余剰生産能力を抱えた状況で21世紀に入ってきたわけです。

それを解決するために、アメリカはグローバリゼーションと称し、国境を越えて労働力の安いところに製造能力を移転し、アメリカの資本主義ルールを浸透させつつ、相対的優位を確保しようとした。結果として世界各地が産業化したが、供給過剰のデフレ傾向は却って強まってしまった。また、製造業の移転を補うほど、インターネットなどの技術による雇用や市場は大きくもなかった。

こう考えると、世界は経済的に見ると余剰の時代、人間的に見るとデカダンス―退廃の時代です。かつてであれば戦争による破壊、鍛え直し、発明というパターンが動き出すのですが、それはできない。それが、今だと思います。

では、どうやったら人間を鍛え直せるか。それが今の教育の課題なのだろうと思います。

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