「100年に1度、人間も社会も劣化する」 人間は放置をすれば限りなく野生化

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山折哲雄(やまおり てつお)●こころを育む総合フォーラム座長 1931年、サンフランシスコ生まれ。岩手県花巻市で育つ。宗教学専攻。東北大学文学部印度哲学科卒業。駒沢大学助教授、東北大学助教授、国立歴史民俗博物館教授、国際日本文化研究センター教授、同所長などを歴任。『こころの作法』『いま、こころを育むとは』など著書多数

山折:イギリスのパブリックスクールに学ぶまでもなく、本来、先輩が後輩に教えてつなげていくことは日本の文化的伝統です。たとえは違いますが、伊勢の式年遷宮の方式が参考になるかもしれません。社(やしろ)を20年ごとに建て替える。20年ごとに再生をすることで天皇を中心とする祭祀が引き継がれてきました。この20年は、知恵のあるやり方です。どんな組織でも20年たったら、大体、ほころびますから。

葛西:そうですね。20年は、いいと思います。技術継承にもなりますよね。私は伊勢神宮の崇敬者総代のひとりになっています。あの伊勢神宮のご遷宮は、最初に御杣始(みそまはじめ)と言いまして、檜の木を切り倒すところから始まる。切り方も、昔ながらです。20年間隔ですから、たとえば20歳の頃に見習い的にかかわった人が、40歳になったときには中心的な役割を果たすわけです。そして60歳になったら指導者になる。60、40、20の年代が共同でやっていくことに意味があります。

山折:最高の技術と伝統を残していく。これは日本の文化の伝統として、もっとも独特のものだと私は思います。それが20年ごと繰り返されるところに、組織を活性化する再生させる知恵があるのではないかと思っています。国鉄の改革ではこうした再生をやったことになるのかもしれません。

葛西:意識していたわけではありませんが、言われるような性質はあるのかもしれません。昭和24年に公共企業体としての国鉄が誕生し、それから紆余曲折を経て、組織は制度疲労を起こしていた。そこで1回、すべてを遮断して、新しいものに再生させるという仕組みを入れざるをえなかった。でもこれには反対意見が圧倒的に強かったのです。今となっては忘れられていますが。

山折:教育について考えると、問題の根源は「子どもたちが、いつの間にか野生化している」ということに尽きるのではないでしょうか。今度、道徳を新しく教科に組み入れるという考え方の起源になった事件は、滋賀県の大津の凄惨ないじめ事件です。あれで、教育の世界でも何とかしなければならないという声が大きくなった。

人間は放置をすると、限りなく野生化します。これは人類が2足歩行を始めて以来の大問題でした。野獣化、野生化をどう抑え込むか、これこそが人類が何千年、何万年考え続けてきたことです。

野生化を防ぐための4つの文化装置

では人類は、どう対応したか。私の仮説では、4つの文化装置を考え出したのだと思います。

1つは、スポーツです。スポーツは本質的には人間の野生化を食い止めるための遊びの文化装置です。

2番目が軍隊です。よく軍隊は、戦争するためのものと言いますが異常なるもの、危険なるものを限定的なものにし、コントロールする働きがある。

3番目が宗教です。先ほどのイギリスのパブリックスクールでも、日本の江戸時代の藩校にしても宗教的な施設から発展してきている。もちろん宗教は十字軍戦争であるとか、日本の一向一揆のように、戦争の発端ともなるわけですが、軍隊と同じように、人間の野生化をコントロールする性格を持っていた。

そして4つ目が学校です。いちばん大事なのは、学校です。学校は、スポーツ、軍隊的な世界、それから宗教的な世界を包含するような形での大きなシステム、文化装置です。大学から幼稚園までと考えると、そういうことになります。そういう観点から、人間の野生化を食い止めるという問題意識から、教育全体の問題を考える必要があると思います。

いじめ事件や猟奇事件などが発生すると、世論が一時的に盛り上がりますが、のど元過ぎれば忘れる。一時的な手当てに終わってしまう。一向に教育全体の問題を考えるという動きにならないというのが、残念でなりません。

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