JR東海グループ「鉄板ナポリタン専門店」の挑戦 創業初の路面店をオープンさせた1人の社員

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「トラッツィオーネ」は6月から営業を再開したものの、緊急事態宣言の発出やまん延防止措置が繰り返され、なかなか客足は戻らなかった。プロモーションを打ち出そうにも駅の利用客そのものが少ないので効果が見込めず、ただ時間が過ぎていった。そして、翌年の1月末に撤退を余儀なくされた。

開業チャレンジ制度にエントリー

内田さんは別の店へ異動することになったが、その傍らで休業中に考えた売り上げアップの方策を3月に社内で開催される開業チャレンジ制度にエントリーする準備を始めた。この制度は、社員の士気向上と店舗開発力の向上、店舗業態の多様性の確保を目的に2019年から実施された。

その名の通り、社員が新業態の店舗を企画、提案し、合格と判定されると開業することができる。店舗の工事費や設備費など開業にかかる費用はすべて会社が負担するため、社員にとってはメリットしかないが、審査はそんな簡単に通るものではない。実際、2020年度の第1回は、4名が挑戦したが合格者は出なかったという。

「店のメインとなるメニューは、鉄板ナポリタンと決めていました。『トラッツィオーネ』ではフードの注文の5割は鉄板ナポリタンでした。1日最高で370食も出たことがあります。これが食べられなくなるのはもったいないと思っていました。そこで鉄板ナポリタンの専門店として開業したら勝算があるのではないかと」(内田さん)

具材にベーコンも使い、ケチャップに肉の旨味を加えている(筆者撮影)

鉄板ナポリタンが食べられるのは、古くからある喫茶店。麺やケチャップにこだわっているわけでもなく、そもそもきちんとしたレシピに基づいて作っているわけでもない。喫茶店で食べる鉄板ナポリタンは、料理としての美味しさよりも昔どこかで食べたことのある懐かしさを味わうものなのだ。

一方、内田さんがめざしたのは、懐かしさはそのままに、食材や味付けを1つ1つ見直して従来の鉄板ナポリタンをさらにブラッシュアップさせた専門店の名に恥じない味だった。「トラッツィオーネ」で人気を博したのもそこに理由があったのだ。

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