吃音に苦しむ33歳男性が「雇い止め」に遭う理不尽 「肩をガクッと落として歩いていた」が理由?

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担当の転職エージェントからは「経歴が汚れてしまいましたね」と、今後の転職活動は一層厳しくなることを示唆された。勤続期間が短いと、それだけで採用担当者から敬遠されるのは事実だ。担当エージェントからは、コロナ禍で障害者の解雇や雇い止め、パワハラが増えているという話も聞いたという。

たしかに厚生労働省は2020年11月、同年4~9月の半年間で、業績悪化などを理由に企業を解雇された障害者は1213人に上ったというデータを公表した。コロナ禍前の前年同期と比べると40%もの増加。雇い止めとなればさらに人数は多いと思われる。コロナ禍貧困の現場では、社会的に立場の弱い女性の非正規労働者が解雇・雇い止めにされるケースに数多く遭遇したが、障害者も例外ではなかったというわけだ。

会社は能力の有無で判断したのか?

取材では、事前にタカオさんから吃音があると聞いていた。話をしてみると、たしかに最初の音を繰り返すことはあったし、私が聞き返したりすると焦ったように早口になる場面もあった。ただ意思疎通は問題なくできたし、会話のスピード感についても大きな支障は感じなかった。一方で録音データがあることもあり、タカオさんの主張には相当程度の信憑性があるように思えた。

推測にはなるが、会社は能力の有無によってタカオさんを雇い止めにしたわけではなく、ただ単に「変わった話し方で、周囲とは少し違う振る舞いをする人」を排除したかっただけなのではないだろうか。

障害者雇用促進法は解雇・雇い止めを含めて障害者への差別的な取り扱いを禁止している。一方で労働基準法や労働契約法を見ると、期間満了に伴う雇い止めは無期雇用転換権が発生していたり、更新を繰り返したりしていない限り、原則違法とはいえない。

このように企業による雇い止めには一定の法的根拠がある。しかし、職場は“仲良しこよし”をする場ではない。多くの人々にとって、働き続けることは生きるための糧を得る手段でもある。「少し変わっている」という理由だけで排除されてはたまらない。能力に著しい問題がなければ、かりに法制度上問題がなかったとしても、雇い止めに対してはできるだけ抑制的になるのが社会的存在でもある企業の役割ではないか。

現在、タカオさんは1人暮らし。収入は月十数万円の失業保険で、将来への不安から失業後は1日1食でしのいでいるという。今後について、引き続き障害者枠に応募するべきなのか、それとも一般雇用に戻すべきなのか、決めかねているという。

タカオさんは「まっとうな会社で働きたい」と繰り返した。まっとうな会社とは何か、と尋ねると、「まずは自分の仕事の成果を評価してほしい」と答えた。

当たり前のことのようにみえるが、吃音に悩むタカオさんにとってそのハードルははてしなく高い。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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