休業手当を求めて声を上げた
「今、アルバイトの私たちがユニオンに入って休業補償を求めています。ちゃんと給料が支払われないと、生きていけません!」
首都圏に初めて出された緊急事態宣言が明けた2020年初夏。東京や神奈川などに個別指導塾を展開する会社が入るビルの前で、講師のケンスケさん(仮名、25歳)が声を上げた。マスク越しの地声だが、意思のこもった声がよく通る。時折、ビルの窓からのぞく人影。彼らに呼びかけるように訴えは続く。
「泣き寝入りなんてしたら、アルバイトの奴らなんか使い捨てすることができると思わせてしまいます。当然の権利を守るために一緒に闘っていきましょう」
ケンスケさんはアメリカの大学を卒業。帰国後、大学院進学の学費を稼ぐため、塾講師としてアルバイトを始めた。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が直撃。塾はおよそ1カ月間にわたって閉校した。ケンスケさんは当時、特に非正規労働者に対して休業手当が支払われないことが社会問題となっているのを知っていた。嫌な予感がして塾の上司に尋ねたところ、はたして回答は「休業手当はありません」。会社側の理屈はこうだ。
「(国の)雇用調整助成金を活用して支払うことができれば最善だが、今回の休校は国や自治体からの要請を受けたもの。したがって会社に支払い義務はない」
コロナ禍の休業手当について、厚生労働省は「(要請を受けた営業自粛でも)一律に支払い義務がなくなるものではない」という旨の見解を示している。また、事業者に対しては「労働者の不利益を回避する努力」をするよう呼びかけるとともに、雇用調整助成金の申請手続きの簡素化や助成率の引き上げなど会社の負担を軽減するための措置を講じた。会社側の見解は無理筋といわざるをえない。
ケンスケさんによると、理不尽だと感じることはほかにもあった。緊急事態宣言解除後、Zoomによる授業が導入されたが、講師たちは引き続き学校に出勤するよう求められた。加えて授業に必要な端末や充電器は自費で用意しなければならなかったという。
このため、ケンスケさんは労働組合「ブラックバイトユニオン」に加入。会社側と団体交渉をすることを決めた。しかし、話し合いは一筋縄ではいかなかった。
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