「休業手当」勝ち取った塾講師が受けた酷な仕打ち 会社側から圧力を受け、誹謗中傷にさらされた

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労働運動への風当たりが強い日本社会において、職場で理不尽な目に遭っても、声を上げる働き手は少数派だ。ケンスケさんはなぜそうした空気を恐れなかったのか。行動の原点には自身の家庭環境と、アメリカでの留学経験がある。

ケンスケさんの父親は大手企業の正社員。しかし、ケンスケさんが子どものころにメンタルに不調をきたす。解雇は免れたものの、手取りの収入は激減。それ以後は母親がフルタイムパートで家計を支えた。

「困窮状態というほどではありませんでしたが、何をするにしてもつねにお金の問題がつきまとう、そんな生活でした」とケンスケさん。働くことは、父親のように長時間労働の末に体を壊すか、母親のように低賃金で搾取されるかのどちらかだと思っていたという。

「同調圧力」も苦痛だった

ケンスケさんにとっては、学校生活における「同調圧力」も苦痛だった。なぜ運動会ではみんなでムカデ競走をしなければならないのか? 同じ制服を着なくてはならない理由は? どうしてはやっているものを好きといわないと浮いてしまうのか? 

ケンスケさんが海外の大学を選んだのは、「日本が嫌だったから」。渡航費や学費は、奨学金や親戚からの借金などで賄ったという。

アメリカでは勉強にも精を出したが、同時に学生たちが当たり前に社会運動や労働運動に参加する姿にカルチャーショックを受けた。

学費減免のために学生自らが声を上げ、ストライキが始まればSNSで注意事項を記したメッセージが回ってきた。在学中、同じ大学の学生が非正規滞在を理由に強制送還させられそうになったときは、ケンスケさんも抗議、署名運動に加わったという。

「アメリカの社会にも問題は多いです。でも、若者が声を上げて闘うことで社会を変えていた。嘆いたり、逃げたりするだけじゃない方法があることを知りました」

帰国後は、若者の貧困・労働問題に取り組むNPO法人POSSEの活動に参加。劣悪な環境で働かされる外国人労働者の支援や、貧困問題についての勉強会に足を運んだ。ブラックバイトユニオンはPOSSEの学生スタッフが発足させた組織でもある。ケンスケさんが自らの労働問題について相談をしたのは自然な成り行きだった。

ケンスケさんは理不尽に対して声を上げ、休業手当を勝ち取った。その結果、110人のアルバイト講師もその恩恵に浴することになった。一見理想的な結末にみえる。

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