「休業手当」勝ち取った塾講師が受けた酷な仕打ち 会社側から圧力を受け、誹謗中傷にさらされた

✎ 1〜 ✎ 103 ✎ 104 ✎ 105 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

当初、会社側は休業手当の支払いを拒絶する一方で社内の貸付制度を利用するよう持ちかけてきたという。ケンスケさんは「休業補償を求めている人間に借金させんの?と驚きました」とあきれたように話す。

その後も、会社側はさまざまな理由をつけて団体交渉に応じなかった。人数制限があるという理由でケンスケさんら組合員を追い返したり、ならばZoomを利用してはどうかとユニオン側が提案すると、個人情報が流出する恐れがあると強弁したり。こうした対応に業を煮やして踏み切ったのが、冒頭の会社前での訴えである。

ネットでバッシングされた

ただ立ち向かわなければならない相手は会社だけではなかった。ケンスケさんのことがメディアで取り上げられると、ヤフコメなどで「(街宣活動が)うるさかった」「大声で叫んでいる人がいてワロタ」といったバッシングが相次いだのだ。中には「ロン毛君が何かやってたwww」とケンスケさんの外見を揶揄するコメントもあった。

さらに会社側はこうした誹謗中傷を根拠にケンスケさんの行動は世間の支持を得ていないという趣旨の書面を送り付け、提訴の可能性までちらつかせてきた。また、会社前での訴えに対してたびたび警察を呼んだという。

ケンスケさんは苦笑いしながらこう振り返る。「会社は米軍基地の近くにあって(周辺の)建物は基本的に防音工事が施されているので、うるさいってことはないと思うんですよね。あと警察は民事不介入ですから、呼んでも意味はありません。訴訟するぞという“予告”にいたってはレベルが低すぎて……」。

ただすべての人がケンスケさんのように肝が据わっているわけではない。警察、訴訟といったワードを出された時点で心が折れてしまう人が大半だろう。ただ私が取材で知る限り、いきなり違法な街宣活動をする労働組合はまずない。逆に労働基準法や労働組合法を学んだほうがよいと思う事業者や経営者は少なくない。会社前での訴えやビラ巻きが嫌なら常識的な対応をすればいいだけの話だ。労働組合と会社は敵対関係にあるわけではない。

ケンスケさんのケースは半年間にわたって膠着状態が続いたものの、結末はあっけなかった。労働委員会の仲介で初めて話し合いの席が設けられた際、会社側が約110人のアルバイト講師全員に対して休業手当支払いのための手続きを進めていると告げてきたのだ。ケンスケさんの主張が100%認められた形での決着であった。

次ページどんな家庭環境だったのか
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事