これまでも理不尽な目に遭ってきたタカオさんは、その後の人事担当者や上司とのやり取りをすべて録音した。それによると、雇い止めの理由として冒頭で拳げた「肩を落として廊下を歩いていた」に加え、次のようなことを伝えられた。
➀一般雇用のほかの社員に比べて60%しか仕事ができていない、➁日報の内容が不十分、➂できていない部分を補うために昼休みを使って仕事をしたり、自ら残業をしたいと申し出たりといった姿勢が欠けている、➃がんばって正社員になろうという意欲が感じられない、➄主任やリーダーなど実務の中心になってくれる人材を求めて採用したのに、そのニーズにマッチしていない――など。
昼休みにサービス残業をせよというパワハラは論外だし、がんばりや意欲といった精神論もさておくとして。業務の達成度や日報について、実際はどうだったのだろうか。タカオさんは「私からの一方的な話になってしまいますが、構いませんか」と前置きしたうえで、次のように反論した。
「ほかの社員は(医薬品の)試験と書類作成を担当していましたが、私が任されていたのは試験だけなので、達成度など比べようがありません。試験の本数だけでいうなら、少なくともほかの社員の3、4倍はこなしていました。そもそも私は直属の上司から残業はしないよう命じられていたんです。日報とは業務報告のようなもので、(内容が不十分との)指摘を受けて同僚の日報を見せてもらいましたが、内容的に遜色はありませんでした」
アルバイトなら雇ってもよいと提案されたが…
タカオさんによると、試験結果に誤りがあったり、やり直しを命じられたりしたことは、ほとんどなかった。それだけに「なぜ雇い止めになるのかわからない」。肩を落として歩いていたとの指摘については、「自分がどんな姿で歩いていたか、正直わかりません。でもそれを理由にするのはあんまりじゃないでしょうか」と訴える。
私が、タカオさんと上司や人事担当者とのやり取りについて、雇い止めの理由以上に理不尽だと感じたのは、彼らが吃音のせいでうまく反論できないタカオさんの言葉を遮り、畳みかけるような話し方をしていたことだ。上司の1人は言いよどむタカオさんに対し、「(会社の要求にこたえられないなら)一作業員として製造ラインとかでお弁当をつくったり、ルーチンみたいな? 同じことをやっていればいいのでは?」と言い放っていた。
結局、会社側は収入ダウンになるアルバイトであれば、雇ってもよいと提案。タカオさんはやむなく応じたものの、そのアルバイトも3カ月後には雇い止めにされた。
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