当時はリーマンショックの余波が残る就職氷河期でもあった。大学院での専攻は理工系だったが、就職できたのは畑違いの飲料関係の会社。正社員だったものの、コミュニケーションが求められる生産管理の現場に配属され、吃音がネックになったこともあり、1年ほどで退職を余儀なくされたという。
その後は派遣会社に登録し、医薬品などの研究開発職に就いた。専門知識を生かせたし、月収も25万円ほどだったものの、雇用期間は細切れ。「話し方が周囲を不安にさせる」という理由で雇い止めにされたのは、このころのことだ。そこまであからさまにいわれることはなくても、疎外されている、浮いているという雰囲気はずっと感じていたという。
30歳を超え、長期キャリアを形成したいと、障害者手帳を取得。転職エージェントを利用し、障害者枠の直接雇用での仕事を探した。しかし、「トライアル雇用」の期間満了や契約期間満了などにより、立て続けに1年足らずで雇い止めになってしまう。
努力しても治らないことも多い「吃音」
ここで吃音についてもう少し詳しく説明しよう。
かつては「どもり」ともいわれた吃音。幼児期に発症するケースがほとんどで、多くは自然に治るが、大人になっても症状が消えずに残る人が全人口の1%ほど存在するとされる。努力や訓練をしても治らないことも多い。また、発達障害と併発するケースもあるといわれ、最近の研究では、原因として脳の機能障害や遺伝的な要因が指摘されつつある。
幼少期に吃音のせいでからかわれたり、注意されたりしたことがきっかけとなり、話すことに不安や苦手意識を持つようになってしまうことも少なくない。成長するにしたがって、人前で話すときに極度の緊張や恐怖といった心理的負担に苦しむ人もいる。
こうした負の経験の積み重ねから、吃音を隠そうとして、結果的に「不愛想」「あいさつをしない」などと言われてしまう人も、中にはいるのではないだろうか。
タカオさんが編集部に取材依頼のメールをくれたのは、昨年末に自身を雇い止めにした会社の対応があまりにひどかったからだという。
タカオさんがこの会社に転職したのは1年ほど前。障害者枠での採用で、月収約25万円、雇用期間8カ月の契約社員だった。医薬品の研究開発職で、自分では問題なく働けていると思っていた。ところが、契約期限が近づくと、人事担当者から更新はしないと告げられたという。
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