「中小企業の後継者探し」は、こんなにも難問だ 国の肝いり「後継者バンク」に漂う暗雲

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通常のM&A(企業の合併・買収)なら貸借対照表や損益計算書などの決算書がしっかりと作られ、そのデューデリジェンス(財務的な価値の適正評価)も行われる。だが、後継者バンクが想定するような個人事業の場合、決算書を作成していないこともあり、経済的な評価は難しい。

人的な信頼関係はさらに難題

さらに重要なのが人的な信頼関係だ。Aさんにしてみれば、これまでに築いたお客さんや仕入れ先などとの関係を継続してほしいと願う。が、Xさんにしてみれば、新しい顧客層や仕入れ先を開拓したいと思うかもしれない。Aさんが店で出してきたメニューの味もできれば引き継いでほしい。だが、Xさんは新しいメニューで勝負したいと思うかもしれない。経済的な関係でのしっかりした評価が難しい分、人的な部分での「信頼関係を結べるかどうかが、引き継ぎの話し合いを進める第一歩」(静岡県事業引継ぎ支援センター)。

静岡県事業引継ぎ支援センターは、後継者人材バンクを始めるより前に、後継者を公募するプロジェクトを行っている。その中で1件、事業承継に向けて具体的に進み始めた例がある。これは旧経営者を尊敬する創業希望者の気持ちが旧経営者に受け入れられたから。信頼関係が築けたうえ、創業希望者の家族が別の職業を営んでいるなど、経済的な課題もクリアできた。さまざまな好条件が重ならないと個人事業を承継するというのは難しいのが現実だ。

東京都にも事業引継ぎ支援センターがある。だが、東京では後継者人材バンクを開設する予定はないという。個人事業の引き継ぎでは不動産の承継が関連する場合が多い。東京では事業よりも不動産承継という観点で、取り次ぐ民間業者がたくさんいるという。こうした不動産仲介が発達している都心部では、個人事業を引き継ぐための後継者人材バンクはあまり必要性がないのかもしれない。

政府の肝いりの事業として進む「後継者人材バンク」だが、現実には課題が山積している。

週刊東洋経済2014年10月18日号』(10月14日発売)の特集は、「会社の片づけ」です。経営者の高齢化、後継者不足。中小企業の”片づけ”は待ったなし。片づけてから継ぐ、売る、たたむ。親子でどう向き合うか。全38ページで取り上げました。
⇒詳しい目次の詳細・購入はこちらから

 

福田 淳 東洋経済 記者

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ふくだ じゅん / Jun Fukuda

『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などを経て編集局記者。

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