「中小企業の後継者探し」は、こんなにも難問だ 国の肝いり「後継者バンク」に漂う暗雲
「なるべく低リスクで起業したい!」「地域の活性化に貢献したい!」
こうした創業を希望する人と後継者不在で悩む中小事業者をマッチングする事業が、今年4月に始まった。静岡県商工会議所にある静岡県事業引継ぎ支援センターで始まった「後継者バンク」だ。
静岡県から全国へ
6月に公表された政府の新成長方針「日本再興戦略 改訂2014」でも「創業希望者をプールした後継者人材バンクの開設」が取り上げられ、静岡県から全国へ横展開されることとなった。10月から岡山県が開始し、11月には長野県でも始まることになっている。事業引継ぎ支援センターは全国に15カ所あり、「そのすべてに開設し、最終的に47都道府県すべてで展開したい」(中小企業庁)というのが政府の考えだ。
だが、ことはそう簡単には進みそうにない。
パイオニアである静岡県も、開始から半年が経過したが、「後継者バンク」から事業承継が実現した例はない。10月10日現在、31人の創業希望者が登録、事業を引き継いでもらいたいという事業者も21者が登録している。それぞれの希望や条件を聞き、1回目の引き合わせを行ったのは10件前後。しかし、2回目以降の引き合わせへ進めたのはごくわずかだ。承継が決まった例はまだない。両者の条件がピタリと合うことは難しい。
事例で説明しよう。たとえば、商店街で飲食店をやってきた高齢の経営者Aさんが、親族以外の誰かに飲食店を引き継いでほしいと考えたとする。一方で、飲食店を経営したいと考える創業希望者Xさんが後継者バンクに登録。両者をマッチングさせればうまくいくように思えるが、現実にはさまざまな課題が待ち構えている。
その店の土地や建物を所有しているのはAさん。Xさんは店を始めるにあたって、店を買い取るのか借りるのか。Aさんはその店の2階に住んでいるが、そこに住み続けられるのか、それとも別に新しい住まいを見つけなければいけないのか。その場合の資金負担はどうするのか。資金負担を考えたとき、飲食店経営で上がる収益の分け前をどうするか。店を運営するために借りたAさんの借金の引き継ぎはどうするか。個人保証で借り入れていた場合はどうするか――。解決しなければならないことは山ほどある。
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