頂き物に「お返し」したら叱られたまさかの理由 「そんなことするならもう差し上げません!」

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そうだよ。プライスレスなものをいただいたら、お礼もプライスレスでなければならない。

そう思い至った私は、「いつもいつもいただくばっかりで……でもありがとうございます!」と、エヘヘと嬉しそうな顔でどんどんいただくことにした。

そしてもらったら即座にありがたく食べ、あれが美味しかった、これが最高だったと具体的に感想を伝えた。するとおばあちゃんはそれを覚えていて、私の好みに合わせてあれこれ作ってくれるのだった。さらに甘いものが苦手なことも伝えたら「そう言ってくれた方がありがたい」と喜んで、あまり甘くならないように味付けに気を使ってくださるのだった。

真心込めて感謝の気持ちを伝える

なるほどそうなのだ。「もらう」ことも「もらい方」によっては最高のプレゼントになるんじゃないだろうか? 真心込めて、打てば響くようにアリガトウの気持ちを精一杯伝えること。

そのためのちょっとした工夫……例えば。何がどう美味しかったのかを具体的に伝えたり、一味違う味付けについてそのコツを聞いたり、つまりはちゃんと味わって美味しくいただいたということ、嬉しかったということを、真心込めて、打てば響くようにちゃんと伝えること。これこそ最高最大の「お礼」であり「プレゼント」なんじゃないだろうか。つまりは「もらう」ことそのものが、まさかの「あげる」に転化するのである。

なので、これができさえすれば、「あげる」と「もらう」のキャッチボールは永遠に続き、しかもやりとりが増えるほどにお互いのコミュニケーションが進んでいくので、もらえるものはどんどんバージョンアップして精度が上がっていくのである。

で、ついに到達したのが冒頭にご紹介した「おせち」である。

実は昨年も少し作ってくださって、その時に入っていた酢ダコが老父にえらく好評で、これは美味しいなあと喜んでパクパク食べていたので私も嬉しくなり、イの一番にそのことを報告したところおばあちゃんもえらく喜んで、今年は「いいタコを一生懸命選んで作りましたからね!」と胸を張っておせちを持参してくださった。どれどれとタッパーを開けると美しいタコが整然と並び、その上にたっぷりと柚子が載っかっていた。

ありがたくて涙が出た。

この気持ちをいかにして伝えるべきか。

カラになった重箱の中に、お礼のお手紙と、足の弱くなった父を励ましながら初詣に行った神社で買い求めたかわいらしいお守りを入れて、おばあちゃんの家の玄関に置いた。

開けた時のおばあちゃんの顔を思い浮かべながら。

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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