享年23歳の京大院生が遺した痛切なる「生きた証」 絶望的な状況、是非を問いかけるむき出しの思考

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筆者が初めて山口さんへダイレクトメールを送ったのは2021年3月の終わり。その後のやりとりを通して、死と向き合う存命の人の「声」として、この連載で紹介することに同意してもらっていた。しかし、筆者が献血記事の真意を図りかねているうちに山口さんの体調が悪化したこともあり、計画は中止させてもらった。

この記事は、改めてご両親に了解をいただいて公開している。

2021年5月31日のTwitter。公開している発信源のなかで、本人による最後の投稿となった

献血記事はどこか様子が変だ。挑発的な調子を除いても、他人に干渉するより自分なりに生きるほうを優先する山口さんの生き方から、唐突に外れているようにみえる。だから、ダイレクトメッセージで「noteの弁明記事(権謀術策、最後の秘策)が真意です」と説明されても腑に落ちなかった。

しかし、時間を空けて向き合ったとき、山口さんのこれまでの生き方と通底している部分に気づいた。社会で生きることを諦めなかった姿勢とは強くリンクしている。体調や検査データが絶望的な状況を裏付けていくなかで、それでも社会で生きたい。社会に強く関わりたい。それを実現できる残された手段が、あの献血記事だったんじゃないか――?

賛否が分かれる痕跡とはどう向き合う?

『「がんになって良かった」と言いたい』(山口雄也+木内岳志/徳間書店)

もう確認することはできない。ただ、推測が正しかったとしても、全面的に肯定することはやはり難しい。

そこで冒頭の疑問に戻る。故人のサイトに賛否が分かれる痕跡が残されていたとき、どう向き合えばいいのだろう?

とりあえず言えることは、その痕跡だけで評価するのは危険ということだ。目立つ痕跡だけで人物やサイトを断じたり、目立つゆえにあえて目をそらしたりするのは、向き合うのとは真逆の行為となる。手間はかかっても、残された他の「声」に耳を傾けるほうが短絡的にならずに済む。

とりわけ山口さんは大量の声を残している。深く内面を思索する文章は「ヨシナシゴトの捌け口」に多いが、相手を強く意識した言葉はTwitterや「或る闘病記」などに多い。どちらも故人の人となりを知る手掛かりとしてはかけがえがない。

山口さん自身、ネット上に声を残すことに意識的だった。2021年3月末、死を覚悟して更新する山口さんにどれだけ先の未来まで残したいのか尋ねたところ、こう返ってきた。

「僕ははてなブログやnoteを使っていますが、それがヤフーブログのように突然終了されてしまうような可能性もあるなとは常々思っています。恐らく何十年か後には無いでしょうね、、、(※筆者中:各発信源の)優先順位というのは無いですが、書いたものはやっぱり全て恒久的に残したいです。100年でも200年でも。」

恒久的に残したいけれど有限であることを承知している。その山口さんの声は、今のところ十分に残っている。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。元葬儀業のライターで、キャリアは15年。デジタル遺品や死後のインターネットコンテンツの行方などを追っている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『中の人』(KADOKAWA)など。

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