「陰謀論者による階級闘争」が変えた弱者の定義

「グラン・トリノ」から「ノマドランド」への変遷

2012年8月、共和党全国大会でスピーチするクリント・イーストウッド監督。同監督による2008年公開の映画『グラン・トリノ』で提示された「自己責任の物語」は、トランプ登場以降、かげりをみせつつある(写真:Bloomberg)
「新自由主義」に奪われた「魂や感性」を取り戻すという視点から書かれた『資本論』入門書で、ベストセラーとなっている政治学者・白井聡氏の著書『武器としての「資本論」』。
同書をアメリカにおけるトランプ登場以降の「2つの敗北者」の視点から読み解く。

アメリカの2つの「敗北者」

2016年のドナルド・トランプの大統領選勝利の選挙参謀にして、トランプ政権の上級顧問および首席戦略官だった、悪名高きスティーブ・バノンは、常々このようなことを語っていた。

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トランプの最大の敵は民主党だけではなく、共和党エスタブリッシュメントである。そのトランプに勝てる相手がいるとしたら、それはヒラリー・クリントンではない。バーニー・サンダースだ、と。

ボサボサの白髪まじりの髪を振り乱すかのように挑発的な言動を繰り返す小太りの男は、無精ひげなうえに、なぜかシャツを2枚重ねで着ている。誰がどう見てもエスタブリッシュメントとは程遠く、トランプの側近でも異彩を放っていた。

この男の人生は、なんとも変わり種である。労働者階級の家庭に育ち、家庭は民主党支持だった。大学を卒業後にアメリカ軍に勤務し、そこから再び大学に戻ってからゴールドマン・サックスに入社。独立したあとには、映画プロデューサーやインターネットの対戦ゲームの仮想通貨を取引する会社を香港で経営するなど、金融界に足を踏み入れたとしても、決して順調な足取りで成功してきたというわけではない。

転機となったのは、2012年に『ブライトバート・ニュース』という右派のブログニュースサイトの経営権を取得してからだ。日本で言うなら『保守速報』のような右派の個人ブログがニュースサイト化した類いのものが『ブライトバート・ニュース』だ。これをバノンは、その影響力の大きさに着目して、右派の財団などから資金調達して、それなりのニュースサイトにまで仕立て上げた。真偽不明な民主党スキャンダルや噂の類いが、ここから奔流のように流れていき、大統領選挙でのトランプ当選にかなりの役割を果たした。

バノンが仕掛けた戦略はネットでの無名な「敗北者」を巨大なパワーに仕立て上げることだったと言っていいだろう。それは、長らくアメリカの「繁栄」に打ち捨てられた存在だった。それをいかに政治勢力として動員するかが焦点で、そこにトランプは着目して選挙参謀にしたわけだ。

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