「タクシーの仕事が最後の砦」地方運転手の本音 流転タクシー第9回、姫路のベテランが語る実情

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この町は好きやし、住んでる人も気のエエ奴が多いけど、村社会やから暮らしにくい面もあって。姫路の人って、あんまり他所の地域に出たがらへんし、外に出ても親の介護など出戻りする人も多い。その理由はどこまでいっても人間関係が“密すぎる”んやと思う。それはすばらしいことやけど、時に足かせでもあり、そういう生き方に疲れてしまった。

タクシー業は田舎ならではのしがらみがなく、自由で居心地がエエ。だからこの仕事を続けられていると思うわ」

タクシーの仕事は最後の砦

この道30年、別のベテランドライバーにも姫路のタクシー事情を聞いた。その答えがドライバーたちの本音でもあり、現状を端的に表した言葉であると感じさせられた。

「極論やけど、田舎では公務員か銀行員くらいしかまともな仕事がないやろ。でも、ちゃんと勉強して大学行って、スーツ着て仕事するような生き方に意味を見いだせない奴もいっぱいおるわけ。それが人生のすべてじゃないし、ワシらみたいな人間にとってこの仕事は救いで最後の砦でもあるから。

ドライバーも高齢化する一方やし、金を稼ぎたい人には決してオススメできへん。それでも、姫路みたいな地方都市の未来にこそ、タクシーみたいな昔気質の仕事の選択肢があってもエエと思う。どれだけ時代が進み、便利な世の中になっても人間の本質は変わらへん。若い子にとっても、そう言えるんじゃないかな」

ほかの地方都市と同様、姫路市でも少子高齢化は進み、タクシー業界にもその余波は着実に押し寄せている。業界ではアプリの導入や定期券導入など、新たな動きも目立ち始めた。

それでも、古き良き時代を踏襲し、変わらぬままあり続けることに価値を見いだすドライバーも少なくない。そして、彼らの存在が町を支えていることも一つの真理であるのだろう。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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