当然、事業者の多さが収益性の高さにつながるわけではない。一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会の調べでは、兵庫県の運転手の年間推計収入は約310万円。上昇傾向にあるものの、関西では大阪、京都、滋賀より低く、全国でも中間に位置する程度で、決して高い数字ではない。
もうひとつ特筆すべきは、福祉輸送限定事業者の数が601社と、大阪、東京、神奈川に次ぐ全国で4位であるということだ。人口比率や台数との比率を考慮すれば、全国で1位の水準でもある。これらの特殊な数字面を読み解くのは、その土地ならではの特徴をつかむ必要があるだろう。
コロナ禍の今、地方都市のタクシードライバーはどんな状況に置かれているのか。8月上旬、新幹線停車駅でもある姫路駅に降りたった。
白鷺城の愛称で知られる国宝・姫路城は、下車するとすぐに視界に捉えることができる。駅から徒歩10分弱で、町のシンボルまでたどり着く。城下町ならではの風情が色濃く残り、欧米を中心とした外国人観光客を魅了してきた都市でもある。
姫路市の人口は約53万人と、県内でも神戸市に次ぐ人口が暮らす西兵庫の拠点だ。2015年に完了した大規模な駅改装工事を期に、大きな変化が生まれた。観光都市として道路や交通のインフラ整備が進み、駅前には大型のショッピングモールや商業施設が続々と進出した。
「付け待ち」する車両の数が尋常ではなく多い
実は筆者はこの町で生まれ育ったこともあり、馴染みが深い土地でもある。帰省の際はその変貌ぶりに驚かされたが、その反面で、大都市の模倣色が強まり、独自性が薄れていく姿に少し悲しくもあった。
改装後に変化の1つとして現れたのが、タクシー乗り場でもある。タクシーは北口と南口で容易に拾えるが、客を待つ「付け待ち」する車両の数が尋常ではなく多い。
平日の日中にもかかわらず、姫路城サイドである北口では10数台が列をなし、南口では実に30台近いタクシーが手持ち無沙汰にしていたのだ。体感的にはこれまで訪れた名古屋や大阪、福岡といった大都市のターミナル駅の停車数をしのぐ数であり、率直に驚いた。
しばらく観察していたが、市バスの乗車者、送り迎えで駅前を訪れる車は多いものの、タクシーに乗り込む人は、ほとんど見当たらない。人の流れが停滞する中、少しでも顧客を拾える可能性がある駅に運転手たちが集まっているのだろう。それでも利用者がいないため、車を降りて顔なじみのドライバー同士で談笑をしている姿が目立った。
地元のタクシー会社を選び車中に乗り込むと、ドライバーは「やっと今日2人目ですよ」と安堵の表情を浮かべた。
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