レースは結局11頭立てとなった。焦点はエネイブルが史上最多の3勝目を挙げ、引退の花道を飾れるかという一点に集約された。最大のライバルと見られたA・オブライエン勢がいなくなったのだ。残る懸念は馬場だった。
パリは雨が降り続いており、当日も晴れたとはいえ不良馬場。昨年、日本馬が3頭挑んだときは重馬場で、それより状態は悪かった。ゴスデン調教師は直前に「敗れるとすれば道悪」と語っており、不安は結果的に的中した。
超スローペースになったこともあり、勝ち時計は昨年より7秒以上も遅かった。エネイブルは抜群のスタートを決めた後、前に壁をつくって4、5番手を追走。デットーリ騎手は仕掛けを我慢し、直線で満を持して追い出したが伸びなかった。
やや消極的な騎乗にも映ったが、昨年は早めに先頭に立って押し切る寸前で、ヴァルトガイスト(現在は引退)の強襲を受けて2着に敗れている。今年はそのことが頭にあったのだろう。世界の名手デットーリ騎手でもうまくいかないことがある。
GⅠ14戦11勝2着2回の驚異的な戦績
それにしても、エネイブルが伸びを欠いて6着に敗れることは想像すらしていなかった。キャリア19戦で4着以下に沈んだのは初めてだ。
これが引退レースと陣営は表明していたが、惨敗を喫し、デットーリ騎手も「彼女は自分にとっては女王であり続ける。今回は馬場がこたえた。動けなかった」とレース後に落胆の表情を浮かべて語るのが精いっぱいだった。競馬の怖さをあらためて思い知らされた。
それでも凱旋門賞に4年連続出走し、日本のわれわれも長く楽しませてくれた。通算19戦15勝2着2回3着1回。GⅠに限れば、14戦11勝2着2回。引退レースで初めて崩れたが、歴史的名牝のレースを日本のファンは馬券を買いながら何度も楽しむことができた。そのことに感謝したい。
なおエネイブルの引退については、ゴスデン調教師が「オーナーに報告してから」と語るにとどめており、動向が注目されている。
勝ったのはソットサス(牡4、仏・ルジェ厩舎)。騎乗していたのは日本で活躍するミルコ・デムーロ騎手の弟クリスチャン・デムーロ騎手だった。好位のインできっちり折り合うと、直線でうまく外に持ち出し抜け出した。馬群が一団で進んだスローペースの展開を、前で運んだことが功を奏した。
ソットサスは昨年の3着馬で道悪の実績もあった。前哨戦のアイリッシュチャンピオンSで4着と伸び切れなかったが、クリスチャン・デムーロ騎手は「今週になって馬が急に良くなった。100%に仕上げてくれた陣営に感謝したい」と語った。
兄ミルコ・デムーロ騎手の後を追ってジョッキーになり、兄の果たしていないビッグレースを制覇した。フランスの名伯楽ルジェ調教師にとっては、悲願の凱旋門賞初制覇となった。ソットサスは現役引退を決めてアイルランドのクールモアスタッドで種牡馬となる。
上位5頭は地元フランス勢。コロナ禍で調整も難しかったはずで、結果的には地の利が生きた面もあったようだ。
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