新型コロナウイルスの感染拡大をうけ、世界経済の減速が続く中、実は勢いを維持しているのが半導体製造装置業界である。2019年度に業界を悩ませたメモリ市況低迷が一段落し、主要各社は増収増益見込みだ。米中貿易摩擦など不確定材料への不安は残るものの、2018年度に記録した過去最高益に迫る企業も多い。
「年前半は顧客の投資がすでに見えているため確度は高い。後半も、前半からの遅延の反動とICT(情報通信技術)向けの半導体需要の増加から、顧客の投資に大きな影響はないと見ている」。半導体製造装置で国内最大手の東京エレクトロンは6月18日、これまで「未定」としてきた今2021年3月期の業績予想を発表した。説明会での河合利樹社長の発言は自信に満ちており、売上高は過去最高の1兆2800億円を見込む。
牽引役になっているのはDRAMやNANDフラッシュといったメモリ投資の回復だ。パソコンやスマートフォンに大量に使用されるこれらの半導体は、定期的に好不況のサイクルを繰り返す市況品。2018年に空前の活況に沸いたメモリ市況は、2019年に激しく落ち込み、韓国のサムスン電子やSKハイニックスなどの大手各社が投資を絞らざるをえなくなった。東芝から切り離され、早期の上場を目指しているキオクシア(旧東芝メモリ)も2019年4~12月期は赤字に落ち込み、40%の株を持つ東芝の前2020年3月期の業績を下押しした。
過去最高売上高を見込む東京エレクトロン
確かにメモリ企業の不調は東京エレクトロンなどの半導体製造装置メーカーを直撃した。半導体製造装置の売上高のうち約7割を占めていたメモリ向けが半減。5G(第5世代移動通信システム)の本格開始を前にロジック向けが伸長して下支えしたが、最大顧客の投資減速が痛手となって、前期は大幅減収減益に終わった。
こうした傾向はアドバンテストやディスコといった他社に関しても同様だ。両社とも新型コロナによる景気先行きが不透明だとし、今期の業績予想は発表していないが、前期比では増収増益となりそうだ。アドバンテストの吉田芳明社長は「最高売上高を狙う年にしたいと考えていたが、当面は外部環境の変化に機動的に対応することを最優先課題にする」と控えめな発言。が、足元での減速の兆候はあまり見られず、あくまで下押し不安にとどまっているのが現状だ。
中長期の先行きとなると、見通しはさらに楽観的である。5Gをはじめとする情報通信技術の発展に加え、テレワークの進展によって、半導体の需要はさらに増加すると考えられるからだ。実際に世界中でやりとりされるデータ量は増えており、動画配信サイト「YouTube」が画質を抑えるなどの対応を取った。ソニーもゲームのダウンロード速度が遅くなるとの注意喚起をしたほどだった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら