佐々木朗希射止めたロッテ、投手コーチ指導論

吉井理人が考えるコーチングの基本中の基本

それでも、はじめはまったく自分自身をわかっていなかったA選手が、徐々に気づきを得ていったのは、とことん語らせたからだと思う。試合の次の日にインタビューを設定し、まずは自分の昨日の投球について点数をつけてもらった。

「60点です」。その点数をなんとなく聞くのではなく、なぜ60点という採点になったのか、徹底的に掘り下げていく。当初は、足りなかった40点がどのような要素だったのか、から聞くようにしていた。

しかし、ネガティブな考えばかり口にするので、あまり効果的ではないと思い、60点をつける根拠となったプラス面から聞くことにした。それ以降のA選手からは、よかった点が出てくるだけでなく、次にはこうしたいというポジティブな答えが聞けるようになった。

次に、試合前日までの練習や当日のメンタルの状態などを聞いていく。「1週間の練習はどうだった?」「ピンチで打たれたとき、あるいは抑えたとき、どういう気持ちで投げてたの?」。

しっかりとできるのはダルビッシュ選手

この振り返りは、かなり重要だ。どのような練習をして、どのような精神状態で試合に臨めば、どのようなプラス面があり、どのようなマイナス面があるかがわかってくる。自分がどのような気持ちになったときに、どのような強みが発揮され、どのようなミスをするのか。ただ漫然とプレーし、そのときの自分の状態を意識しなければ、本当の自分の状態はわからない。だから、何度も同じミスを繰り返すのだ。

振り返りは3人の投手に対して行ったが、A選手のように高い効果が出なかった選手もいる。おそらくその選手は、内省が足りないのだと思う。自分を深く掘り下げる自己客観視は、上手にできない選手も量をこなせば一定のレベルには到達する。

これまでコーチとして選手に接してきて、振り返りがしっかりとできる選手はほとんどいなかった。唯一できると思ったのは、ダルビッシュ選手ぐらいである。彼は、野球に対する興味、好奇心が人並み外れている。あれだけの実力があるのに、少年のようにまだうまくなりたいと思っている。

ほかの選手が投げている球種も、どうやって投げているのか興味津々だった。好奇心があるから、向上心も出てくる。彼のすべての行動の源には好奇心があると言い切っていいと思う。なぜ? なぜ?と問い続けていると、課題は自然に出てくるものだ。

問題なのは、ダルビッシュ選手のような好奇心はなく、何も考えずに野球をやってきた選手が、その能力の高さによってずば抜けた結果を出してしまうことだ。プロに入るまではそれで通用するだろうが、プロにはとてつもない才能を持った選手たちが大勢いる。才能だけでは通用せず、いずれ壁にぶち当たる。

しかし、今まで何も考えてこなかったから、壁にぶち当たっても、どうすれば乗り越えられるのか考えることができない。そうした選手が自分で考えられるようにするためのコーチングが、振り返りなのである。

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