佐々木朗希射止めたロッテ、投手コーチ指導論 吉井理人が考えるコーチングの基本中の基本

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この課題の見つけ方には、本人の意識の問題と、継続する力が大きく作用する。僕は選手を指導するとき、野球以外の日々の生活の中で小さい課題を設定し、それを実行する習慣をつけるように勧めていた。朝起きたら絶対に顔を洗うなど、誰でもできるような習慣でも継続すれば効果がある。

しかし、継続し、習慣にするのは思った以上に難しいものだ。プロの選手は、そういうことができないと、上には行けない。中学校や高校の部活動のころから、自分で自分の課題を見つけて実行する習慣を身に付けていれば、大人になってからの成長スピードも速い。しかし、高校まで指導者の言いなりで、自分で考える習慣が身に付いていない選手は、プロになってから苦労する場合が多い。

また、課題設定のプロセスを踏むことで、自分の特徴もわかってくる。うまく課題設定ができる人は、自分の特徴を知ったうえで、自分に合った小さな課題から始めている。もし、まだその域に到達していなくても、小さな課題に数多く取り組み、失敗し、その原因について思考を巡らせる中で、自分の特徴がわかってくる可能性もある。

「振り返り」で課題設定の正しさを検証する

課題設定のやり方を身に付けさせる目的で実施していたのは、試合後の「振り返り」である。自分のプレーを自分で振り返ることで、選手たちにいろいろなことに気づいてほしいからだ。最終的には、考えることなく身体が勝手に動くようになってほしい。

その前段階としては、どうしてそのプレーになったのかを自分で分析できるようになっておかなければならない。まずは、身体が勝手に動いた状態を客観的に把握させ、なぜそうなったのかを掘り下げていくことが重要である。

2017年シーズンの1年間、ファイターズの若手ピッチャー3人を指名し、先発した次の日に「振り返り」をやってもらった。3人のうちの1人、A投手は、極めて劇的に変わった。はじめのうちは、振り返りをしても投球に対する意図が感じられなかった。

「キャッチャーが出したサインのとおりに投げました」「投球フォームも、いつもコーチに言われてるようにちょっと突っ込んじゃいました」

どうしてサインどおりに投げたのか、投げたかった球種だったのか、なぜ突っ込んだ投球フォームになってしまったのか、そういう重要な点に関する考えが出てこない。いったいどうなることかと心配していたが、振り返りを繰り返していくうちに、A選手は徐々にいろいろなことに気づき始める。

「本当はこの球種をこのコースに投げたかったんですけど、キャッチャーが違うサインを出したので、仕方なく投げちゃいました」。さらにしばらく続けると、当初とはまったく違うことを言い始めた。「こういう点が僕の特徴なので、あの場面ではこのコースにこういう球を投げれば抑えられると思って投げました」。

この年、A選手は調子を落として二軍に落とされた。しかし、振り返りがだんだん上手になって気づきが増えるとともに、調子を上げていった。そして、再び一軍に上がり、安定した成績を残せるようになった。振り返りによって、A選手は試合中にフォームの修正までできるようになった。試合中に自分の投球フォームの状態が自分でわかるようになり、その修正まで自分で工夫してできるようになった。まさに劇的に変化した事例だ。

しかし、シーズン終了後の秋のキャンプでは、前の状態に戻ってしまったようだ。試合から離れたことで、忘れてしまった可能性がある。このように、一進一退するケースも少なくないので、コーチは根気強く意識づけをしていく必要がある。

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