佐々木朗希射止めたロッテ、投手コーチ指導論

吉井理人が考えるコーチングの基本中の基本

心理面で重要なのはモチベーションだ。個人のモチベーションの高め方には、さまざまな方法がある。例えば、自分と同レベルのある人物を、「仮想ライバル」に設定する方法がある。「あいつには負けたくない」「あいつに勝ってみんなに認められたい」という心情を利用し、モチベーションを上げる方法だ。しかし、この方法は誰にでも使えるというわけではない。

仮想ライバルに負けたとき、「ちくしょう、負けてたまるか」と、さらにモチベーションを高めて向かっていく選手もいないわけではない。しかし、失敗して自信を失い、「やっぱり、俺はダメなんだ。あいつには勝てないんだ」と、むしろモチベーションを下げてしまう選手もいる。僕の経験では、落ち込んでしまう人のほうが多い。

また、現実問題として、反省もしにくい。なぜ負けたのかを分析しようと思っても、負けた要素は仮想ライバルとの比較でしかないからだ。ライバルをつくってモチベーションを高める方法を否定するつもりはない。その人に合っていて、過度にのめり込みすぎなければ大きな問題にはならないと思う。しかし、モチベーションを高める効果は安定しないというのが実情だ。

小さな課題を設定し、成長のスパイラルをつくる

これに対し、簡単で小さな課題を設定し、小さな成功を継続的に積み上げていく方法がある。僕は、この方法が最もモチベーションが上がるやり方だと思っている。課題をクリアできたときに達成感が得られ、それが新たなモチベーションにつながり、成長のスパイラルに入っていきやすいからだ。

それに、課題をクリアできなかったとしても、原因を特定しやすい。練習のやり方が間違っていたのか。練習量が足りなかったのか。そもそも課題の設定が間違っていたのか。原因が明確になれば、軌道修正をしたうえで新たな課題に立ち向かっていくモチベーションが生まれる。

まずはコーチが課題の設定の仕方を教え、次に対象者が自分で課題設定できるように促す。それにより、設定する課題自体が、個人にとって能力を高めるのにより効果的なものとなる。「課題設定⇒振り返り⇒新しい課題の設定」というサイクルが習慣になるまで徹底的に繰り返すといい。

ただ、実際の運用には注意が必要だ。クリアしやすい課題から始めるべきなのに、どうしても難易度の高い課題を設定してしまうからだ。何度トライしてもクリアできないような難易度の高い課題を設定すると、それがかえってモチベーションを下げる要因になってしまう。

課題設定のポイントは、課題を解決するために必要な要素が、すべて自分でコントロールできるもので構成されていることだ。その前提条件がなく、運や天候、あるいは個人では対処できない外部要因など、予測不可能な条件が入ってくる課題を設定してはいけない。クリアできるかできないかが、その人の現在のレベルとはまったく別の問題になってしまうからだ。

選手が自分でコントロールすることが可能で、失敗してもやり直しがきくような課題を設定し、モチベーションを高めるような指導をするのが、コーチが行う育成行動の本当の役割である。

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