英語の「秋」、2つの呼び名の知られざる紆余曲折 アメリカはfall、イギリスはautumn…?

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「実りが多くなる季節」という意味で「秋」になったのかもしれません。そういう意味では、昔の人も「食欲の秋」だったんですね。なんだか急に親近感が! もともとの「収穫の秋」も、かなり食欲直結系ではありますが……。

その後、harvestよりもautumnのほうが、頻繁に使用されるようになっていくのですが、16世紀になるとfall of the leaf (落ち葉)という表現も「秋」を表すようになり、17世紀にはこれをfallと省略して「秋」という意味で使用するようになったようです。

こちらはやけに詩的な表現ですが、これは「芸術の秋」という感じでしょうか。「食欲」派と「芸術」派ができたということですかね(笑)。そして18世紀ごろまでには、harvestという単語が「秋」という意味で使われることはなくなり、autumnfallの2つが主流となったとのこと。

ちょうどその頃、イギリス人がアメリカに渡っていきます。つまり、autumnfallの両方がアメリカに伝わって行ったのですが、初めはアメリカでもautumnが主流だったようで、18世紀中ごろまではfallが「秋」の意味で辞書に載ることはなかったと言われています。ところが、徐々にアメリカではfallのほうが主流となっていきます。なぜfallのほうが好まれたのかはわかっていないようですが、どうやら「芸術」が「食欲」を凌駕した様子。

一方、イギリスでは、fallというのがアメリカで主流となるにつれて、うそか誠か「アメリカふうな表現」ということでfallの使用が避けられるようになったという説があります。そして最終的に、ほぼautumnしか使用されなくなってしまったということです。

理由はさておき、現在イギリスでは、ほぼautumnのみが使用されているというのが現状です。この意味においては、fallがアメリカ英語で、autumnがイギリス英語という認識も間違いではありませんが、厳密にはどちらもイギリス生まれ。fallという単語はアメリカで誕生したわけではなく、autumnと一緒にイギリスから輸入されていたのです。

フランス語やラテン語、ギリシャ語の輸入

11世紀頃までイギリスで使用されていた言葉を「古英語」といいます。この時点でもラテン語やフランス語などの単語が多少含まれてはいたようですが、主にゲルマン系の言語が母体となっていました。その後、イギリスがフランスのノルマン人に征服されたことを機に、15世紀頃にかけて英語にフランス語がたくさん借用されます。

この時代は上流階級の人たちはフランス語を話し、中下流階級の人たちがゲルマン系の言葉を使うという2層構造となっていました。有名な話ですが食肉の呼び方にその名残を見ることができます。

cow(ウシ)はゲルマン系の単語ですが、beef(牛肉)はフランス系の単語です。同様にして、pig(ブタ)とpork(豚肉)、deer(シカ)とvenison(鹿肉)などがよい例でしょう。家畜を育てる下流民の言葉が動物を表し、その肉を食べる上流階級の言葉が食肉を表しています。

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