無理に埋めたら、誰かが不幸になる。強制転勤をお願いすると、せっかくの人材が辞めてしまうかもしれない。だから「仙台、誰か行ってくれませんか? 待っていますよ」と言って、手が挙がるまで待つ。要は人ベースで、配属を決めていくということです。
変革時に問われるのは「理念」と「姿勢」
――志水さんはギャップジャパンで人事責任者をされていた際に、「望まない転勤の廃止」を実行されていました。その時の話を教えてください。
志水静香(以下、志水):ギャップジャパンは、2008年に「望まない転勤の廃止」制度を取り入れました。かつては、ギャップでも2週間前に福岡転勤の辞令を出すなんてことが、ザラにあったわけです。ところが、夫(社員)の転勤に付いていった専業主婦の奥様に体調を崩す、うつなどのケースが出てきていた。このことをきっかけに、「望まない転勤の廃止」制度ができたのです。
ギャップには「オープン・ドア・ポリシー」という制度があります。社員が上司に懸念を伝えて納得いかなかったら、その上の上司に伝える。さらに納得いかない場合は人事に伝えるんですね。私たち人事のところに、転勤について社員の相談案件が上がってきたのもきっかけの1つです。
それで会社が転勤費用をどれくらい払っているのか調べたら、当時ギャップは日本全国に160店舗ほどありましたので、転勤費用はかなり大きな金額でした。経営者側に強制転勤のメリット・デメリットを挙げて説明をしましたが、当初は「社員のわがままではないか」という反発も数多くありました。でも物事を変える際に問われるのは、やはり「企業の理念」であり、「社員にどのように向き合うかという企業の姿勢」なんですね。
中野:ギャップでも「わがままでないか」という反応があったのですね。日本企業は同期を横並びで競争させるようなところがあり、配慮についても社内での公平感を重視しますよね。何のための配属なのか、費用をかけてまで投資したいことなのかという観念があまりない。
志水:人材獲得競争が激しい米国の多くの企業には、「社員が辞めないように会社は努力をしなければならない」という基本原則があります。ギャップにも当然原則があり、「強制転勤をすると、退職率がもっと上がる可能性があります。これだけ多くの社員が不満を言っていますよ」と経営者側にきちんと説明をしていきました。
さらに定量的、定性的な事実を集めるために社員の方と直接話ができる場を設ける。廃止によって今まで強制転勤に使っていたお金もほかのことに使え、社員の満足度も上がるなど、実はいいこと尽くめだったんですね。
ご家族の方が病気になる、介護や小さいお子さんを抱える不安があると、仕事に集中するのが難しくなります。いかに働くうえでの障害を取り除いて、会社で活躍してもらうかという風土がギャップにはありました。
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