では、新しい仕事が軌道に乗り始めたとしよう。複数の好きな仕事に取り組めるのはうれしい反面、どのようにバランスを取ればよいかが課題になる。正能さんは、それぞれの職場の人から「ほかの仕事をやっているせいで、業務がおろそかになっている」と思われないように、どの仕事に対しても決して手を抜くことはないそうだ。
「当たり前ですが、一緒に仕事をしているメンバーに迷惑をかけないことは、別の仕事をするうえでの大前提だと思っています」
それどころか、正能さんは1つの職場で得た財産を、惜しみなくほかの職場に還元することを心がける。
「”ソニーの正能”と”ハピキラの正能”では会える人が違います。複数の仕事に携わっていると、それぞれの仕事から得られるつながりが築かれていきます。”人のためのウルトラC”と呼んでいるのですが、ハピキラの仕事で得たご縁で、ソニーのほかのメンバーの役に立てたらいいなと思っていますし、逆もまた然りだと考えています」
必ずしも副業が正しいわけではない
ときに地味にしっかり、ときに派手にがっちりと、正能さんのように「地味と派手のコントラスト」を駆使しながら複数の職場に寄与し、人に求められる存在になってこそ、気持ちよく複業を成就させられるのだろう。
副業や複業の魅力を説く一方で、正能さんは幸せに対する考え方は人それぞれであり、多様な働き方があるのが自然だという。
「必ずしも副業や複業をすることが正しいとは思っていません。たとえば、1つの組織の中で、出世のために尽力するのも決して悪いことではないんじゃないかな。好きな仕事に取り組み、本人が心から満足しているのなら、その人にとってすばらしいことです」
ただし、地位や名誉を気にして、内心はやりたいことがあるのに我慢しているというのであれば、「ほかのことに目を向けてみてもよい」というのが正能さんの持論だ。
「私はモチベーションと能力が社会の仕組みを超えたときに、今の仕組みに則らない形で、人は好きなことができるようになると思っています。
逆にいえば、モチベーションと能力がなくても、待っていれば社会の仕組みが変わり多くの人は好きに生きられるようになる。ですが、今どうしても満足できないと思うなら、モチベーションに従って行動を起こし、能力を高めて、社会の仕組みを超えていくしか方法はありません」
欅坂46のヒット曲『サイレントマジョリティー』に、「見栄やプライドの鎖につながれた大人は置いて行け」というような歌詞がある。組織の中で見えない鎖につながれているとすれば、自らの心の声に従い、悔いのない人生を送るために行動すべきだろう。
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