これだけ、世論の分断が進めば万人受けするコンテンツなど作れない。そう割り切って、あえて、論議を呼びそうな「炎上戦略」を選択する企業も出始めた。人種差別への抗議のため、試合前の国歌斉唱で起立せず、大バッシングを浴びたNFLの選手を広告に起用し、大バッシングを浴びたのがナイキだ。
アメリカの保守層は大激怒し、ナイキのスニーカーを燃やしてその動画をソーシャルに上げるなどボイコット運動にまで発展した。しかし、株価は一瞬下落したものの、持ち直し、売り上げも伸びているという。話題づくりは大いに成功したと言われている。
日本企業は不祥事を極度に恐れるが、実際、企業不祥事は、長期的に見れば企業価値を落とさないという研究もある。1993~2011年までにアメリカで発生したわいろ、詐欺、CEOのスキャンダルなど80件の企業不祥事を調べたところ、発生から1カ月以内に、6.5~9.5%株価が下落したものの、その後は競合などよりもいい業績を残す結果になったというのだ。不祥事から挽回しようとする過程で、改善策を施行し、「膿」を出すことができるというのが理由らしい。
最近、話題になった不祥事としては、顧客に無断で口座を開くなどの不正営業が問題視されたアメリカの銀行ウェルズ・ファーゴ、排ガス不正で「最悪の不祥事」といわれたドイツのフォルクスワーゲン、乗客の引きずり降ろし騒動で批判を浴びたアメリカのユナイテッド航空などがある。これらの企業は、どれも、今は何事もなかったかのように、“通常営業”を続けている。
もちろん、東芝などのような致命的な経営判断のミスや法に触れる事案につける薬はないが、多くの企業不祥事は想定されたほどのブランドイメージの毀損もなく、「のど元過ぎれば」というのも事実のようだ。
強固なブランドイメージと独自の「ファンコミュニティ」を形成しておけば、多少の批判は受けたとしても、大きなダメージはない。ナイキもそう踏んだ可能性もある。
そういった企業の動きに目を光らせるメディアと、取材を受ける側の企業との関係性にも変化が表れつつある。
「ノーコメント、ビジネス取材の死」
今年7月6日、アメリカの名門紙ワシントン・ポストのある記事がPR業界で話題になった。コラムニストのスティーブン・パールスタイン氏の記事で題名は「ノーコメント、ビジネス取材の死」。アメリカの多くの企業が、記者からの取材を受けたがらないケースが増えており、ウォール・ストリート・ジャーナルや『フォーチュン』、ニューヨーク・タイムズ紙など名だたるメディアのビジネス記者たちも「多くの企業が極めて、取材に非協力的だ」「敵意さえ感じる」と口をそろえる。
過去6カ月のさまざまな企業のコメントをチェックしてみたところ、TOYOTAを含む多くの会社が「コメントしない」、もしくはまったく返答をしなかったといい、企業とメディアの関係性の悪化を危惧する。
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