肌や体型にも曲がり角を感じ始めた大人の女性なら、ある程度は服に助けてもらったほうがいい。「顔は3分で済ませて30秒で服を着て、それで可愛くなったほうがいいですよね」。働く女性にとっては毎日のことなのだから、本当にその通りだと共感を禁じえない。
自分の野心にアクセスする
「私自身、BCBG MAXAZRIAというブランドにいた時、部下の管理という大きな責任を負うことになったのに自信がなくて、自分を強く見せようと黒ずくめのハイファッションで身を固めていた時期があったんです。でも顔の印象と服の印象が合わない。すると人から見たときに信頼感が感じられず、一言一言がうそっぽく聞こえて、余計自信なさげにプルプルして見えるんですよ」。
みなみは、その時代の自分の姿を「岸壁に咲いたコスモス現象」とユーモラスにたとえた。普通に生えているより繊細に見える、岸壁のコスモス。私たちは背伸びして自分以外の不似合いな誰かになろうとすることで、そんなプルプルしたコスモスになってはいないか。
女性にしかできない、ファッションを用いた自己マネジメント。それは多種多様なアイテムがあるレディースならではのわざだ。「みんながクールでシャープなキャリアウーマン然としたファッションをしなきゃいけないなんて時代は、とっくに終わっているんです。ビジネスに寄せて無茶なキャラ変えをしたりしないで、ビジネスシーンでも『自分らしさ』を探す努力をしてほしい。すると、自分の軸というか、芯ができるんですよ。心の声が聴こえて、自分の野心にアクセスができる」。
ビジネスの装いにはちょっとしたルールがあるからこそ、それさえ押さえれば周りの反応が変わる。ある専門職の女性は、起業直後、それまでは着なかったジャケットを着てクライアントとのセッションに臨むと、相手に「ジャケットを着てきてくださったんですね」と感謝されたのだという。ジャケットというアイテムから、相手は自分が敬意を持って接してもらえているというメッセージを受け取ったのだ。
2018年夏、みなみはCanau by KANA MINAMIというブランドを立ち上げ、自説である「いい額縁」となる基本的な6アイテムのオンライン販売を始めた。食べ物にたとえるならば「シンプルだけど、ご飯やパンのような、あるのが当たり前だけどないと困る、とっても使い勝手のいいデザインのアイテム」だ。柔らかだがきれいな輪郭を出す素材で作られたジャケットやカーディガン、パンツとスカート、長袖・半袖の色物ブラウス。「大人の女性には『肉を拾わずかさ増さず』、体型をきれいに見せる素材は絶対ですから」。
そう言いながら服がたくさん入った大きな荷物を抱え、「これから語学学校なんです」と急ぐ。この夏から娘を連れて、アメリカで一足先に単身赴任中の夫のところへ合流し、暮らすことになった。現地のファッションスクールでファションを学ぶため、TOEFLを受験中なのだという。見せてくれた手帳は、渡米直前まで顧客たちのための「最後のスタイリング」のスケジュールその他でびっしり。「どうしてこんなことになってしまうのか……」と自分であきれてみせながらも、みなみもまた、自分の野心にアクセスのできている女性なのだ。
かつて自分を激しく折檻した母親は、若くて美人で、町の中でもおしゃれな人だった。彼女が経営する喫茶店へ、しかられるとわかっていてそれでも行ったのは、置いてあるファッション誌を読みたかったからだ。いまだに当時の喫茶店の常連客からは、あの時助けてあげられなかったことを詫びてみなみへ花が送られてくる。でもみなみは、いつも自分に力をくれる服と一緒だった。次は服を学びに、アメリカへ行こう。装いの力を借りて運命を変えるのは、自分だ。
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