「未来のミライ」が切りひらく日本映画の未来 「Jポップ化」するアニメ映画を超えた先に

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このような「Jポップ」感覚のアニメ映画への需要が、主に10~20代に強く存在することはよくわかるし、このニーズをうまくすくい取って、『君の名は。』『バケモノの子』がヒットしたことも十分に理解できる。

ここで出てくるのはターゲット論である。この原稿で何度も「私(われわれ)世代」と限定した書き方をしたように、世の中には「Jポップ」に胃もたれするミドル・シニア層が、大変なボリュームで存在する。だとしたら、同層に向けた、胃もたれしない、さっぱりとした食べ心地のアニメ映画もあっていいだろう。そして私を含む、そんなミドル・シニア層(特に子育て層・子離れ層)の大好物は、親子愛だ――。

しかし、『未来のミライ』の側にも、問題がなかったわけではないだろう。「未来ちゃん」と「くんちゃん」が空の中で手をつないでいるあのポスターや、予告編の作り方、人気俳優を中心とした声優の人選は、おしなべて「Jポップ」感覚に見えたし、その結果、「Jポップな期待」を持って臨み、「期待はずれ」と感じた観客も多かったはずだ。この場合、観客の側に罪はない。

そこには新しい「未来」がある

とはいえ、本稿では、『未来のミライ』のチャレンジを前向きにとらえたい。ミドル・シニア層に向けて、日常の風景の中で、淡々と親子愛を描いていく、さっぱりとしたアニメ映画への胎動として。そこには日本映画の新しい市場、新しい「未来」があると思う――。

最後に白状すれば、私はこの映画を、ずっとまぶたを湿らせながら見ていた。そんな映画は今年に入ってたった2つ。この映画と『万引き家族』だ。テイストはまったく違うものの、どちらも日常の中での親子愛と真正面に向き合った作品だ。

われわれはこういう作品に、まぶたを湿らせる何かを感じる世代なのだろう。そして、こういう作品がわれわれに、切っ先の鋭い何かを突き付ける時代なのだろう。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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