「いつも応援してくださっているファンの皆さま、ありがとうございます。来年の9月に、私は引退いたします。私らしく引退の日を迎えたいなと思っていますので、皆さんぜひ、応援よろしくお願いいたします」
このコメントとともに、別のスタジオから、真っ白なドレスをまとい、2016年のヒット曲=『Hero』を堂々と歌い上げた安室奈美恵――いまだ記憶に新しい昨年末のNHK『紅白歌合戦』、大詰めの1シーン。歌手別での瞬間視聴率は、他を圧倒する48.4%(関東地区)を記録した。
2017年の『紅白』で、安室奈美恵が「特別企画」という、まさに特別な形で出演したのは、まず、引退に向けての「最後の紅白」になるということがあろう。
加えて、昨年11月に発売されたベストアルバム『Finally』の特大ヒットも考慮されているはずだ。その売上枚数は、『紅白』の中で190万枚と伝えられた。
そして、オリコンによれば、2018年1月15日付オリコン週間アルバムランキングで、発売から2カ月で200万枚を突破したことが発表された。
今回は、このアルバム『Finally』がいかにして、特大ヒットにたどり着いたのかを、分析してみたい。そして、この特大ヒットから他のエンタメ市場に転用できるポイントは何かも――。
「90年代記号」の活用で「浮動票」獲得
今回のヒットの主要因を、「固定票」を確保しながら、莫大なボリュームの「浮動票」を巻き込んだマーケティングにあると考える。そして、「浮動票」の巻き込みに向けて強力に機能したのが「90年代記号」の徹底活用プロモーションである。
『Finally』の発売に絡めて、「SHIBUYA 109」に掲示された巨大広告が話題を呼んだ。白いミニスカートのワンピースとブーツという、1990年代後半の「アムラー」を想起させるファッションに身を包んだ安室奈美恵が、いかにも「90年代」な黒いガラケー(「ムーバP」とのこと)を持って立っている、とてもクールなデザイン。
実は、あのポスターはタイアップ広告だった。コピーは「namie amuro×docomo 25th anniversary」。安室奈美恵のデビュー25周年と、NTTドコモの営業開始25周年をかけ合わせた企画だったのである。
『Finally』のプロモーションは、この「25」という数字をかなり強く押し出している。アルバム単体の看板広告やアルバムのジャケットにも、タイトル「Finally」よりも大きくレイアウトされた「25」という数字。
「25周年」=「安室って、デビューしてから、もう25年も経ったんだ!」という印象を喚起する仕立てになっている。
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