佐藤社長に「日活の社訓」について質問すると、「社訓は“ない”と思います。ただし、私の中では、日活を次代へ引き継いでいくという意志だけは強く持っています」との回答が返ってきた。帝国データバンクの調べでは、老舗企業の約7割が社訓・社是を持っている。長い会社の歴史の中で、その時々の経営者や従業員が立ち返る拠り所として、多くの企業で社訓が受け継がれてきた。
しかし、日活には社訓がない。困難な局面に立たされたとき、現場に居合わせた人たちが自分の頭で考え知恵を出し合い、体を動かして会社の将来を切り拓いてきた。
女優・和泉雅子は日活撮影所の存在を、“学校”と表現したという。社員をはじめ、撮影スタッフ、俳優、年齢もさまざまな人々が良い映画を作るという目的のもと集まった場が日活だった。社訓は無くても、そういった場がなくならないようにという、強い“意志”がそこにあった。
あるのは会社存続に対する強い意志
それは経営者にとっても同じ。佐藤社長は、「黄金期終焉後、ロマン・ポルノから会社更生までの間、労働組合幹部から専務、そして社長となった根本悌二氏(故人)。いちばん厳しかったであろう時に舵取りを任された根本氏と、できることなら少しでも話がしてみたいですね」と本音を語ってくれた。
社訓がないだけに、過去の“先生”“先輩”と有形無形の対話を繰り返すことで、これまで16代を数える日活の経営者は、会社を存続させていくという強い意志を受け継いできたのだろう。
「それでも、世界中の人々に面白い映画・コンテンツを観せたいという思いは、私も先人たちも変わらないと信じています!」(佐藤社長)。
日活には106年かけて蓄積してきた膨大なフィルムライブラリという“財産”もある。90年代という早い段階から開始していた衛星放送事業「チャンネルNECO」は、先人たちが作り続けたフィルムライブラリがあるからこそ可能な、日活ならではの事業だ。必ずしも、老舗企業に社訓は必要ない。困難の歴史の中で、もがき続け、映画製作にこだわり続けた人の意志の集合体という形で、今日の日活がある。
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