宇宙飛行士たちと接していると、生来の明るさや忍耐強さなど、小さい頃からのご両親の育て方の影響が大きいのだろうなと感じることが多々ある。
誰とでも心を開いて信頼関係を築き、先が見えない状況でも地道な努力を続ける彼らは、たとえ宇宙飛行士にならなくても、社会の第一線で活躍していたに違いない。こうした資質は、訓練プログラムによって磨かれる部分もあるが、幼少期から育まれる要素も大きい、と宇宙飛行士選抜試験を担当したJAXAの山口孝夫氏が言っていた。たとえばチームワークは、立場の違う人たちと切磋琢磨しあう経験を重ねることで培われていくものであり、付け焼き刃的に身に付けるのは難しいという。
そこで今回は番外編として、宇宙飛行士を育てたお母様たちを直撃。いったい、どのように宇宙飛行士を育てたのですか?
自宅でインコを解剖する古川家
「わが家には教育方針や子育てのポリシーなどなかった。ただ、面白いことを子どもたちと楽しもうとしただけ」と言うのは、古川聡宇宙飛行士の母、古川浩子さん(76)だ。とにかく好奇心が強く面白いことが大好きで、考えるより先に行動するタイプ。古川宇宙飛行士も「好奇心の強い母親に大きな影響を受けた」と会見などで語っている。
浩子さんは幼い頃から未知なるものへの好奇心が強く、考古学者を志していたほど。しかし「手に職を」という家族の意見に従い大学で英文学を学ぶ。パンアメリカン航空の予約課初の女性社員として英語で予約をさばいていた元祖グローバル女子だ。
妊娠を機に泣く泣く退職するが、聡さんが生まれると「育児が面白くて」と、生来の好奇心に火がつく。聡さんが興味を持つことを一緒に楽しむだけでなく、率先して遊びを見つけていった。
たとえば、古川飛行士が宇宙に関心を持つきっかけになったのは、アポロ11号の月着陸。だが当日、古川家は海水浴に出かける予定であり、月面着陸の生中継は見られないはずだった。当日の朝、「出発は明日にしましょう」と決断を下したのは浩子さんだ。「だって、『人類初の瞬間』を見たいじゃない」というのがその理由。子どもに見せたいというより、自分が見たかったのだ。
最初は「テレビなんていつでも見られるじゃん」と不満だった子どもたちも、実際に月面を宇宙飛行士が歩く場面を見るとくぎ付けになった。もちろん当時、5歳だった聡さんの脳裏にも刻まれ、宇宙飛行士応募のときによみがえることになる。
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