浩子さんは宇宙人や超常現象を扱う雑誌『ムー」を愛読していた。「宇宙人って本当にいるのかな」と雑誌を見ながら聡さんと盛り上がった。テレビはつけっ放しでアニメも見放題。聡さんが「ウルトラセブン」にはまった頃は、怪獣辞典や怪獣の絵本などをそろえた。
聡さんは怪獣の名前を覚えたい一心で字を覚え、怪獣図鑑や怪獣漫画を次々作ったという。毎年夏、ペルセウス座流星群が現れるときは、子どもたちと屋根に布団を並べて流れ星を数える。子どもたちが途中で寝てしまっても、最後まで流れ星を探すのが浩子さんだった。
驚くのは、飼っていたインコが死んでしまったときのエピソード。「死因が何だったか調べましょう」とハサミでお腹を開けてみたという。父親が医者という家庭で育った浩子さんには、特別なことではなかった。「腸の途中から便がなくなっているから詰まったのかな」と原因を推測する。弟や妹は目を背けたが、目を輝かせて見ていたのが聡さんだった。未知なるものへの好奇心や、謎解きをしていく姿勢を聡少年は自然に学んでいった。
1週間で運動靴に穴が開く
猪突猛進型の浩子さんと対照的に、お父さんの故・一夫さんは、ニコニコ笑いながら「お先にどうぞ」と譲るタイプ。パンアメリカン航空の営業担当で、人類初の月着陸を成し遂げた宇宙飛行士の来日時にアテンドを担当したほど優秀で人望も厚い。優しくて人の和を大切にし、自分のことは後回し。聡さんは、父親そっくりと浩子さんは言う。
しかし聡さんは本当にやりたいことには、決してあきらめない。たとえば9歳から始めた野球は、その後、大学生になっても続けた。浩子さんが忘れられないのは「運動靴の穴」だ。
「学校から帰ってくると、家の前にあった幼稚園の塀にボールを投げて戻ってくるのを受ける、”独りキャッチボール”を黙々と何時間も繰り返すのです。暗くなってお腹がすくまでずっと続けている。そのうち、運動靴の右足のつま先だけ穴が開く。きっと同じ場所に力が入るからでしょうね。新しいのを買っても、また1週間もしないうちに穴が開いてしまう」
浩子さんによると、野球を始めた頃は決して上手ではなかったという。でも身近にいるお手本を見つけてフォームをじっと観察し、一生懸命まねをするのだという。「意外に負けず嫌いで、あきらめが悪いんです。人には腹を立てないけど、できない自分に腹を立てる。できるまで何度も何度も繰り返すのです」(浩子さん)。
古川飛行士は宇宙飛行士候補者に選ばれてから宇宙に飛ぶまで10年以上かかっている。しかし「あきらめれば可能性はゼロになる」と、決してあきらめなかった。そうした胆力は小さい頃から養われていたのだ。
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