採用試験で、こちらが求める資質を持つ人を選び出すのは、とても難しい。できれば「伸びしろ」がたっぷりある人を選びたい。逆の立場から言えば「選ばれる」のは至難の業だ。どこがどう見られるのか、見当がつかない。
いったい、「選ばれる人」は何が違うのか。その答えを持つひとりがJAXAの山口孝夫さんだろう。山口さんは、おそらく日本の選抜試験の中で最も厳しい、宇宙飛行士選抜試験の基準作りにかかわった人だ。2009年に963人の応募者の中からJAXA宇宙飛行士候補者3人が選ばれた際に、その選抜基準を作り、実際に審査を進めた事務局の中心人物のひとりである。
日本の宇宙飛行士の選抜基準は、世界でいちばん厳しいと言われる。NASAでは多いときで約100人の宇宙飛行士がいて、中には飛ばないまま終わる人もいた。だが人員と予算が限られた日本では、「飛ばない宇宙飛行士」を抱える余裕はない。確実に本番一発勝負で仕事を成功させる、タフで勝負強い人を厳選しなければならない。
実は、宇宙飛行士に求められる資質に特別なものはない、と山口は言う。「コミュニケーション」「チームワーク」「リーダーシップ・フォロワシップ(補佐力)」など、一般社会で求められるものばかりだ。
中でも注目するのは「伸びる人」か否か。「実際に選ばれて訓練に入れば、今までやったことがない訓練ばかり。そこで臆せず、さらに伸びる人を選びたい」(山口)。伸びる人を見極めるポイントは「未知のことを面白がることができる人、失敗を恐れない人」だという。
なるほど、理想はわかった。しかしいったい、こんな資質があるかどうかをどうやって見分けるのか。
面接で「響く言葉」「響かない言葉」
日本の宇宙飛行士選抜では書類審査の後、第1~3次試験まで、約1年間かけて心身共に徹底的に審査が行われる。「選抜の後半に残る人は頭がいい。自分がどう反応すれば審査員に”受ける”かは予習してくる。だからそうじゃない方向に揺さぶりをかけるんです」と山口は言う。
たとえば面接。面接は集団面接や個別の心理面接、英語面接、JAXA部長級職員面接、そしてJAXA役員面接など、さまざまな立場や職種の人と行われ、入れ替わり立ち替わり質問者が変わる。部長級面接や役員面接になると、ひとりを複数の人間が取り囲み、約30分かけて行う。否が応でも緊張は高まる。
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